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2022年9月22日木曜日

長編小説 恋の命題(書籍販売あり)

 【ご紹介】

製本小説、第3弾で、テーマは「恋とは何か。」です。

LGBTなど多様する現代の恋模様を考える一つのきっかけになってもらえれば良いかなと考え、作品を作りました。


【あらすじ】

クラス成績No.2の男子高校生、柴田優芽は、名前でいじめられた過去があった。

優芽はその事実をコンプレックスに感じ、周囲の人を遠ざけていた。
彼が自分らしくいるために趣味として始めた趣味は、女装をしてオトコの娘になることだった。

そんな優芽には唯一、クラスの中でライバルと認める女の子がいる。
クラス成績No.1の女子生徒、湖山愛紗だ。
愛紗はまた同じクラスの水原清美と恋人関係にあった。

二人は試験が終わった帰りの教室で、些細な喧嘩をしてしまう。
モヤモヤとした気持ちを晴らすために女装をしてゲームセンターへと足を運ぶ優芽はそこで愛紗、清美と遭遇する。

優芽は正体がバレるのを恐れ、その場から逃げ出すがカバンについていた大事なキーホルダーを落としてしまった。
そのキーホルダーをまさかの清美に拾われてしまう。

そしてその清美は愛紗との恋人関係に対して悩みを感じていた。

オトコの娘となる優芽
女の子が好きな愛紗
好きになる相手で揺れる清美……

それぞれの感情が動き始める。
恋とは何か。
想いが交差する学園生活の中で抱える恋の命題が生まれていく!


【見どころ】

・百合小説が楽しめる。

・百合・女装男子の恋愛模様が楽しめる。

・普通に学園生活を書いたものなので、高校生活を思い返しながら読むこともできる。





【書籍情報】

製本サイズ:A6
ページ数:428
表紙加工:カラー
本文カラー:モノクロ
綴じ方:無線綴じ

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製本のご注文はこちら

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2022年7月3日日曜日

憧れ

event_note7月 03, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

あなたにもこんな気持ちになる人が誰かいるだろうか?

会うだけで胸が高鳴るようなそんな人が。



登校時間より一時間は早く着く電車に私は毎回、乗っている。

特段、早起きが得意なわけではない。

実際は一日中、欠伸が止まらない日もしばしばだ。

それでも私は少し早く学校に行きたい理由があった。

いつも通りに朝早い電車に乗り込んだ私は、電車の進行方向に横長に伸びる席の隅っこに腰を下ろす。

すると、私に付いて隣に座る影があった。


「おはよ!」


「あ、おはよう」


同じクラスメイトの花織ちゃんだ。


「梨沙ちゃん、こんなに朝早くにどうしたの?」


「うーん、早く行った方が勉強が捗るかなって思って」


私の適当な嘘に、素直に納得した花織ちゃんははにかんだ笑顔で答えた。

「梨沙ちゃんって勉強熱心だね」

こういう明るくて純朴な性格の彼女だからこそ、入学当初、いち早く内気な私に声をかけてくれたのだ。彼女の天真爛漫さはまるで私にとって太陽だった。


「そんなことないよ……」


つい私は悪いことをしているようで、俯き加減で答える。そんな私の様子を気にして花織ちゃんは答えた。


「大丈夫?もしかしてどこか具合が悪いの?」


「全然」

首を振って彼女の心配を否定した時、次の駅に電車は着いた。開いた扉から数人の男子高校生が騒がしく入ってくる。

早朝の静けさを蹴散らすかのような笑い声だ。

私はその高校生の中に、彼の顔を見た。

その瞬間、目の瞳孔が自分でも驚くほど開いてしまうことを私は知っている。

心なしか胸の鼓動が高鳴るのを感じた。つい、私は胸に手を当てた。

その様子を隣で繁々と眺めていた花織ちゃんは、私をじっくり観察した後に不思議そうに聞いた。


「あの人が好きなの?」


私はさらに瞳孔を開いた。


「え!?いや、そんなこと……」


ガシャン


取り乱した拍子に膝に載せていた鞄を落としてしまった。その途端、彼は集団の中からいち早く私の元に来ると、鞄を軽々と拾い上げ、私の膝に載せ直した。


「気をつけなよ」


「あ、ありがとうございます」


笑顔を向けた後、去っていく彼の背中を二人で見つめた。


「いいなあ、素敵な人」


「花織ちゃんも彼氏いるじゃない?」


中学校から一緒の男の子らしいと他の友達から聞いた。花織ちゃんは少しはにかんで答えた。


「うーん、ずっと一緒の幼なじみで、向こうが私を好きになってくれたから付き合っている感じかな」


「えっと、それって……」


本当は好きではないってことなのかな。

「いや、好きだよ。でも、憧れるって訳じゃなくてただなんとなく一緒にいていいかなって思ってるだけ」

花織ちゃんは私の心が読めるのか?

大事な友達である花織ちゃんを見つめると花織ちゃんは言った。

「だって梨沙ちゃん、なんとなく思っていることがわかっちゃうんだもん!」

「そ、そんなにわかりやすい!?」

私は自分を指差して驚いた声で言うと、花織ちゃんはこくりと頷いた。そんなにわかりやすいのかな。素直な自分がどこかバカバカしくなる。

「でも、それが梨沙ちゃんの良いところだから。だからさ、先輩に連絡先聞いてきたら?」

花織ちゃんの声にどきりとする。


「え?へ?れ、連絡先!?」


「そうだよ。今、聞かなきゃ、いつ聞くの?」


「そ、そうだよね」


私は自身の憧れを叶えようと立ち上がった。隣の花織ちゃんは両手を握りしめて私の行く末を見守ってくれている。

私は彼の手が届く手前まで歩いていった。


「あの……先輩」


私の存在に気がついた先輩は振り返るとびっくりしたように私を見た。


「あの、先輩、さっきはありがとうございました」


「あ、さっきのことね!声をかけられると思ってなかったからびっくりした」


「先輩、良かったら……」


「え、和馬、その人誰?」


私は先輩の顔しか見れていなかったけれども、隣の車列から移動してきたらしい女子高生が私と先輩の横に立っていた。


「ああ、里帆か。今日はまた電車乗り過ごしたのかと思ってた」


「あ」


私は不意に声が出た。先輩は、彼女の可愛らしい手に触れて握りしめたからだ。


「あ、そういえば君なんだっけ?」


「いえ、別になんでもないです」


私は、頑張って笑顔を作ると、そのまま踵を返した。

電車の座席に戻ろうとする香織ちゃんの瞳が悲しそうに私を見ている。

私は静かに笑うと、涙がそっと頬を伝った。


叶わない恋はたくさんある。

それでもやっぱり私は憧れがいい。悲しかったけれどもそう思った。

私は香織ちゃんみたいに器用じゃないから。

記憶

「なんで、なんで切ってしまうんだよ」

少年は大声で叫んだ。

周囲の作業員のおじさんたちはチェーンソーで街路樹を切り倒そうとしているところに少年が飛び出してきたことで慌てて彼を制した。


「君、危ないから下がっていなさい」


「下がれるもんか。その樹は、 お爺ちゃんは、まだ生きているんだ!だからお願い、切らないでよ」


叫ぶ少年に対して作業員のおじさんたちは、笑うもの、気の毒そうに見るもの、反応はそれぞれだ。ただ共通しているのは、彼らが少年の言葉の一切を信じていないことだ。


「あはは、何を言っているんだ君は」


「お爺ちゃんは僕にいろいろなことを教えてくれるんだ」


「おじさん方を揶揄うのはそろそろやめにしなさい。よし、仕事を始めるぞ」


「や、やめてーー」


振り下ろしたチェーンソーの刃は、その後、あっさりと樹木を切り倒してしまった。


 *


「う、うう、うううう」


「どうしたの、蓮くん? 」


赤いランドセルには不釣り合いなほど、身長がすらっと高い女の子が、切り株となった樹の下で泣いている少年に声をかけた。


「由紀ちゃん? 」


女の子は、蓮より2つ上のお姉さんだった。この間の行事遠足で、面倒を見てくれたことを気に仲良くなったのだ。


「どうしたの? そんなところで泣いて」


「え、えっとね……僕を励ましてくれるお爺ちゃんと待ち合わせていた樹が切られてしまったの、止めたんだけどね」


泣きながら話を終えた蓮くんに寄り添うように、由紀ちゃんは背中を撫でた。


「蓮くん、残念だったね。でもどうして樹を切られることを止めようとしたの?」


「それはお爺ちゃんがずっと僕を励ましてくれたからだよ」


蓮くんはさらにお爺ちゃんと出会ったことを話し始めた。




「うわああああん」


その日、泣きながら蓮くんは歩いていると急に声をかけられた。


「もう、うるさいなあ。なんだ小僧、ピーピーと泣きおって」


目の前には不意にシワだらけで茶色い衣を纏ったお爺ちゃんが座っていた。

頰はこけ、痩せ細っている。

蓮くんは咄嗟に声をかけられたことをびっくりして驚いた。


「小僧?僕のこと?」


「そのほかに誰がいるというんじゃ?それよりも小僧なんで泣いておるんじゃ?」


「掛け算がよく分からなくてずっと残って勉強していたんだけども、でも全然覚えられなくて……」


「なんじゃ?そんなことで泣いていたのか」


「そ、そんなことはないんじゃない、お爺ちゃん!!僕にとっては大事なことなんだ」


蓮くんは、理解してくれない老人を前にさらに絶望的な表情をする。老人はやれやれというと、蓮くんの頭に手を置いた。


「小僧、お前は良く頑張っておるじゃないか。悩むのも諦めるのも、自由じゃ。ただ一つ今出来ることに精一杯であれ」


蓮君は、老人の真っ直ぐな視線を見て、涙を拭った。


「精一杯に頑張ったって報われるわけないじゃないか! 」


「そうじゃ。報われるかどうかなんてわからん。ただ何かしなければ何も起こりはしない。そうではないか? 」

なおも老人は言った。老人は遠くを見て、蓮くんに語りかけるように話す。


「ワシはこの場所にずっと立っておる。ただ立つだけじゃが、鳥の巣を作る場所を与え、誰かの木陰になり、空気を作っておる。それがワシの正直にやりたいことだからじゃ。だから、小僧、どんなことでも己に正直にやればよいのじゃ。そうすれば何事も良くなっていく。そういうものじゃ」


「そっかあ。算数は嫌いだけど、でも覚えたら良いことがあるような気がする。だから頑張ってみようかな」


「そう素直に思ったならやってみなさい。ワシはあともう少しお前をみているから」


その言葉とともに一陣の風が吹いた。

砂埃が目に入りそうになった蓮くんは一瞬、目を閉じる。

すると、あとには目の前に苔の生えた立派な木と蓮くんだけが取り残されたのだ。




「多分、そのお爺ちゃんは樹の精だったのかもね」


由紀ちゃんは、蓮くんの頭を撫でると、その後に、樹がおじさんたちによって切られた後の切り株に触れた。


「蓮くんは、お爺ちゃんに何を伝えたかったの? 」


なおも半泣きの蓮くんに由紀ちゃんはふわりと尋ねた。


「お爺ちゃんのおかげで、クラスで一番になれたって伝えたくて」


蓮くんはまた涙を浮かべながら、ランドセルの蓋を開いて中からA4の賞状を取り出した。


「これを見せたかったんだ」


そこには、蓮くんの名前と九九の段が全て言えたという表彰状だった。


「おめでとう。蓮くん」


由紀ちゃんはそういうと、その時、また風が吹いた。二人を包むような優しい風だ。


「きっとお爺ちゃんはここにはいないけれど、ずっと蓮くんを見ているよ」


「そうだよね、きっと」


二人は、空を見上げた。二人には、青い空がまるで笑ったように見えたのは気のせいではないのかもしれない。

2022年6月29日水曜日

塩辛さとほろ苦いビターチョコ

event_note6月 29, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

 

「いらっしゃいませ! 」


茶髪の長い髪の子が、元気よく声を出している。 

とても小さくて整った鼻と色白の肌はまるでおとぎ話にでも出てきそうな雰囲気だ。 

入ってくる客もさぞかし気持ちがいいだろう。

 雰囲気は高校生だけど、多分、髪を染めている時点で大学生の可能性が高い。

 そんな分析を朝からやっているくらいに僕の脳みそは暇を持て余していた。

 ここは高校の近くにあるコンビニである。

 ここでご飯を買って学校に行く生徒が多いため朝の八時頃は大勢の学生で賑わっている。

 けれども今はまだ七時過ぎ。


そんなにお客もいない。


店内は閑散としている。


僕がこの空間にいるのは場違いなくらいにだ。 少々、気まずさを覚えながら雑誌コーナーで好きな漫画を見つけると僕は立ち読みを始めた。

途端に欠伸が出る。

それにしても眠い。 部活があるわけでもなく、勉強をするわけでもなく、僕は朝早くにこのコンビニに来る。 理由はただ一つ。
待っている人がいるからだ。
名前も知らないし、歳も知らない。

 ここは僕の高校の他にもう一つ、私立と公立がある高校密集区だからどの高校にいるのか も知らない。 

ただわかっているのはいつも胸のところに『籠球』と書いたジャンバーを羽織ってこのコ ンビニに友達とやってくるということだけだ。 

僕はその子見たさにいつもこうして早起きしている。

 きっかけはそう、たまたま目が覚めてこのコンビニにご飯を買いに来たときだ。

 下宿に住んでいるのだが、部屋は狭く落ち着いてご飯を食べる気にもなれない。 

だから僕はいつも学校の教室でご飯を食べたり、外食することがほとんどだ。 その日は学校に行くのは早いけれど、誰もいない教室で朝ごはんにすることを考えていた。

あの日の出来事を僕は雑誌を読むふりをしながら振り返る。


*     *       *


その日はなぜか目が覚めて朝早くに学校へと向かうことにすると、近くにあったコンビニ
に寄った。
朝ごはんはまだだ。僕は、そのコンビニでおにぎりとサンドイッチを買うことにしたの
だ。
安定のツナマヨ、美味しそうに見えたカルビ丼のおにぎり、タマゴサンド、そしてお茶を
手に取る。
お弁当と飲み物をレジまで持って行き、会計を済ますと、寝不足の頭でぼうっとして上を
見上げながらコンビニの自動ドアを出た。
ああ、学校に着いたらちょっとうつ伏せになって寝よう。
すると、いきなり僕の胸に何かがぶつかった衝撃が走る。

「うわっ! 」


「きゃっ! 」


僕は店内で、相手は入り口前でお互いに尻餅をついた。

 衝撃で投げ出されたスマートフォンがコンビニ前のゴミ箱の前へ飛んで行く。 

「いったあ!!どこ見て歩いているの?」 

ポニーテールでキリッとした目つき、眉毛もシュッとした顔つきをしているので、怒ると ちょっと怖いけれど、肌艶はよくわりかし美人に見える女子高生だ。

 女の子かあ。面倒だな。


直感的にそう思った。 恋愛漫画でこういう場合、すごく素敵なストーリーに発展するけれど、現実では、相手も 僕もただただ迷惑というか面倒なだけだ。


どうやって謝ったらいいかな。 必死にこの状況の気まずさを妥協することを考えながら僕は彼女を見た。

 「痛たあぁ......」 

彼女はスカートの中を盛大にこっちに見せるような格好で脚を開いて、尻餅をついてい る。


おかげでスカートの中に履いている水色のパンティーは僕の方から丸見えだった。 白いレースが凛々しい見た目に似合わず、可愛らしい。 女子高生にしてはえらくセクシーな下着だなと見とれてしまった。 

「あなたね、何ぼけっとしてるの? 」


怒っている彼女に今やっと気づいた。


「え、えっとごめん。ついぼうっとしていて」 

パンティーを見れなくなるのは名残惜しかったが立ち上がって僕は彼女に手を差し伸べた。


「あの
......ごめん、ほんと。立ち上がれる? 」 

彼女は僕の手を使わずに立ち上がるとスカートについたホコリを払い、自分のスマートフ ォンを取りにゴミ箱前まで行った。 

「あんたねえ、目の前くらいちゃんと見なさいよ!!」


まずい。カンカンだ。


彼女は目を三角にして僕に指を指して近づいてきた。 

相手もスマホを操作してたし、お互い様じゃないか。 

そう言いたかったが、この迫力だ。

 きっと僕の言うことは全く聞き入れてはくれないだろう。

 その時、彼女の足元からぐちゃりという嫌な音が聞こえた。

 二人とも彼女の足元を見る。 見ると、僕が買ったおにぎりとサンドイッチはぺちゃんこだった。 お茶は無事だったが、見事に凹んでいる。
どんな力で踏んでるんだ、この子は。


「ご、ご、ご、ごめんなさーい」 

僕よりも女の子の方が僕の朝ごはんを潰してしまったことにショックを受けたらしい。

 勢いよく頭を下げた。

「べ、べつに大丈夫だよ。また買えばいいし、僕もぼうっとしてたのが悪いからさ」

あ、形勢が逆転した。
僕は密かに心の中でふうっと落ち着くと、冷静に対応した。
しかし、彼女は納得がいかなかったらしい。とても真剣な顔つきで何か考えるように腕を
胸元で組んだ。

「たしかに貴方も悪いけれど、貴方の昼ごはんダメにしちゃったのは、私だし、なんか私
が奢らないとフェアじゃないわ」


フェアじゃない。
僕はパンツを見れただけで十分、フェア以上なのだけど。 なんてそんなことを言うものなら僕はこの子になんの罪を着せられるかわからない。 僕は唖然として彼女をみた。 彼女は立ち尽くす僕になにも言わせず、袋の中身を確認すると、コンビニの中に入る。 ひょいひょいと買う物を決めると、レジに行って会計を済ませてしまった。 その間、僕は女の子の華麗な動きをただ眺めるだけだった。 僕の分と合わせて、自分のご飯も買ってしまっている。きっとよくここにくるんだなとい うことが彼女の動きでわかった。

 「はい!あ、タマゴサンドは売り切れてたから、ミックスにしたけれどその方が健康にい いでしょ?」


「あ、うん、えっと
......ありがとう」 

笑顔で袋を手渡してくれる彼女の表情に僕の視線は釘付けになる。 その拍子に僕の心はあっという間に彼女に奪われてしまった。 「あ、それとお礼に私の持ってたチョコレートつけておくね」 ポケットからロッテのチョコレートを取り出して袋に入れる。

 「じゃあ、私、朝練あるから行くね」


彼女が去る間際、買った中身を確認した。


サラダとおにぎりか。 一緒にご飯が食べれるとは限らない。けれども、一か八か声をかけてみよう。 

「あ、あの!待って! 」


「え? まだ何か用? 」


女の子は少し面倒そうだ。

 「えっと...もし良かったら僕と朝ごはん食べないかな?せっかく買ってくれたし、誰かと ご飯食べたら美味しいんだけど」


「は? 私、朝練だって言ってる
......」 

の子のまくし立てる声とは裏腹に彼女のお腹はググーっと鳴き声をあげた。恥ずかしそ うにお腹を抑える。


やった。


一か八かの賭けに勝った!


「そこに公園があるからさ、どうかな?」

 「分かったわよ。そこまで言うなら一緒にご飯でも付き合ってあげる!なんかぶつかった 縁だし!」


女の子はちょっと面倒ながらも僕の案に乗ってくれた。
よし!今日はついてる! 心の中でガッツポーズをしながら僕は女の子とともに近くの公園にあと向かった。

朝の公園はまだ、誰もいない。
朝の公園に女の子と二人きりだなんて夢みたいだ。 

そんな浮き行き気分で彼女と公園のベンチに腰を下ろした。

 しかし、彼女は座るなり、コンビニの袋の中のおにぎりとサラダを手早く取り出してパク パクと食べ始めた。 

一通り急いで食べるとカバンから水筒を取り出して食べたものを流し込む。 

彼女は女の子なはずなのに、なんだろう......僕より勇ましい。 そして彼女は立ち上がった。

「そんなに急いで食ったら喉詰まらすよ」 

「平気!君はゆっくりしてていいよ。私は朝練行かなきゃいけないし」

 そういって鞄を背負うと彼女は歩き出した。
もっと話がしたかったのに。 一人ぼっちで置いて行かれる僕は切なげに、その背中を僕は見つめることしかできなかっ た。


*      *      *


そして今、僕はその子に会えないかとこうしていつもあの時会ったコンビニにいる。 彼女は今日も来ない。

きっとあの日は特別だったんだ。 

そう思って今日も僕はコンビニを出て、学校へ向かおうと思っていた。

 雑誌を置こうかと、ページを閉じて雑誌棚にしまおうとしたその時だった。

 手を繋いだ高校生のカップルがコンビニの入り口に入ってきた。

 その時、僕は目を疑った。 あの時、朝ごはんを弁償して公園で一緒にご飯を食べてくれた女の子は同じバスケ部の部 員であろう男子と一緒に手を繋いでいたのだ。

僕はこの時、必死で見ないふりをした。 彼女たちはお弁当コーナーで一緒にお弁当を選んでレジへ持っていくと仲良くまたコンビ ニを後にしていった。

彼女たちが出て行くまで僕は全く動けなかった。

 彼女はきっと僕のことなど覚えてはもういないのかもしれなかったけれど、気づかれるの が怖くてそっと息を潜めて雑誌コーナーの前で雑誌を読むふりをした。 

僕は彼女たちが出て行った後、どこを通った記憶もなくいつの間にか学校にいた。

 そして自分の教室で向かう途中、僕はトイレに寄った。 

個室に入り、勢いよく戸を閉めると便器に座り、俯せになって泣いた。

 そしてポケットからあの日、もらったビターチョコレートを食べる

 あの子からもらったビターチョコレートは、とてもとても苦い味をしていた。

口の中がカ ラカラしてそのために苦さと塩辛さが混じってさらに嫌な味になった。

 声に出ない涙を流して、鼻水は備え付けのトイレットペーパーで拭いた。 その日から僕はビターチョコレートが大嫌いになった。



2022年6月7日火曜日

月うさぎは僕らの中に

event_note6月 07, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments
外は眩しいくらいに日の光が反射している。 
 そのくせ、私はこの暗いカフェの中でひっそりとコーヒーがくるのを待っていた。
 カバンに入っているPCやスケジュール帳なども開こうとせず、ただ窓から外の光を伺い、 そして店内へと視線を移してはまた窓の光に視線を戻す。
 私の目には、その光は眩しかった。 
 さらに、店内に目を戻すこともまた私の目には眩しかった。
 今年の春に目指していた大学を卒業するも、世間は私に冷たかった。
今も仕事先を探して いるが、なかなか仕事は見つからない。
 そのうちに私の中で何かが崩れていくような音がしていた。
 でもここ数週間、私がこのカフェに通うことが心の雪崩を唯一、食い止めてくれている。
 私はカフェに通う理由が近づいてくるのをそっと気がつかないフリをした。 

「お待たせしました」 

私よりも少し歳上のウェイターの声が響く。 
私は恥ずかしげにありがとうございますと小さく会釈をした。 そしてそのコーヒーカップをゆっくりと落ち着いて持ち上げた。 黒い液体が微かにゆらゆらと揺らめく。 ゆっくりと時間をまずは味わうようにコーヒーカップを傾けていった。 コーヒーは口元からゆっくりと体に染み込むように入っていく。 私の人生は決して冴えることもなかったけれども、心は冴え渡っていくような感覚を覚え た。 そんな私のコーヒーを飲む姿を少し眺めたあと、我に返ったようにウェイターは会釈をした。 

 「失礼します」 

 ウェイターは立ち去ろうとする。 きびきびと動くその動作と身なりに私は少なからず、かっこよさを感じていた。 せっかく近づいた彼は私の元をまた離れて行ってしまう。 私は、どうしようかと躊躇したが、意を決して背中に向かって声を出した。

 「あの......」

 ウェイターは私が呼び止めたことに驚き、ピンと背筋を伸ばすと、振り返った。顔は少し 何か粗相があったのだろうかという困惑が見られる。 

「どうかされましたか? 」 

急に引き戻されてきた彼の視線に逆に私は何を答えていいのか戸惑った。 

 「あのー、今日は、あんまり混んでいないんですね」

 私は、取り止めのない話をする。 違う。話したいことはそんなことではない。 ウェイターは明らかに戸惑った顔で私を見ながらそれでも、優しい声で答えてくれた。

 「ええ、今日は平日の昼間ですから。逆にお客様はラッキーです。今はこんなにがらんと してますが、夜になると混みますから」

 チラッとウエイターは背後のカウンターの方を見た。私も釣られてみると、きれいに並べ てあるお酒が目に入る。 この人もお酒が好きなのだろうかと私はふと思った。 しかしこれ以上、私は彼を引き止める術を知らない。 私は無口になる。 特に忙しそうにない店内と店主の方をちらりと見たウェイターは、意外にも私の席から離 れることはしなかった。

 「あの、失礼ですがよくここの席に座っていらっしゃいますよね」

 ウェイターは私にそう尋ねてきた。 たしかに私はこの席によく座っている。 その理由はどこよりもこの店内の見晴らしがいいからであるが、私はその真実を話すこと はできなかった。 

 「ええっと......その、窓が近いからです」

 私は少し頬が熱くなるのを感じる。 そんな私の気も知らずに、ウェイターはなおも話を返してくれる。しかし、その答えは私の予想を斜め上に行くものだった。 

 「外の景色を見たいならあちらの方がより見えますよ! 」 

 ウェイターはそういうとさらに大きな庭園が見える窓を指さした。 しまった。私は、戸惑う。 しかし、ウエイターは笑って答えた。悪戯好きの少年のような笑顔だ。

 「でもまあ、ここから見える窓の景色も格別ですよね。僕は、いつも見える月の景色が好 きなんです」 

 ふうっと胸を撫で下ろす。 この席ではない場所に連れていかれるのはいろいろな理由でどこか落ち着かなかった。
私はウェイターの言葉に窓の外を見る。そう言われてみれば、この窓は、晴れていると不 思議と昼間の月がよく見えた。
 私は窓の方を見るとぼんやりと見える真昼の月は私たちを窓から覗き込むように空から見 下ろしていた。 

 「......月ですか? 」

 私は首を傾げた。夜の月が好きならまだしも昼間のぼんやり見える月が好きなんだ。 彼のロマンチストな一面を知った気がしてつい気持ちが浮き足立つ。

 「月は夜でも明るいけれども、いつだって明るい星だからこそ、昼間でも輝いてみえるん です。本来は、夜の外灯に群がる虫たちも電気の光がなければ、月の光を頼りに集まるら しいです。つまり月は道標なんです」 

 「でも、それって虫は私たちのせいで道標を失っているってことですよね」 

 「そうですね。そう考えると虫たちはちょっとかわいそうなのかもしれませんね」 

 何気ない彼の言葉の中で私はつい、辛い過去を思い出していた。 
彼の言う虫という言葉を聞いて私は学生の頃の私を思い出した。
 私の鈍臭さから私は中学生の頃、グズムシと言われて馬鹿にされていた。
 今思えばとてつもなく変なネーミングセンスだ。
 どうせ自分たちと違って見劣りする何かに対して線引きをしたいだけなんだろうと思う。
 何をやっても下手な私を見て、いつも私のことを影でバカにしていた。
相手は面白そうに 言うけれど、私の耳や目にはあの声と顔が脳裏に焼き付いている。
 あいつ、鈍臭くてうざ こっち見ないで欲しい うわあ、気持ち悪 彼らは口々にそういって私を蔑んだ。 私にもきっと悪いところはあったと思う。
けれども私はいつの間にか彼らの中で目下の存 在になっていた。
 私は、彼らの心ない言葉がいつしか胸に刺さって刺さって抜けなくなっている自分に気づ いている。 気づいているけれども、その刺を未だに抜くことができない。
 いつしか眩しい灯りに近づきたくてもその灯りを這う虫のような存在でしか私はいられな いのかもしれない。 その思いはずっと私の中にあったものだ。 

 「それじゃあ、私はその虫のような存在なのかもしれませんね」

 つい、私はそんなふうに彼に言い放ってしまう。 しまったと思った。 彼は私のその言葉に何か迷惑なことを言ったと思ったのか慌てて右手を大きく振ると謝っ た。

 「いいえ、僕の方こそ、なんだか失礼なことを言っちゃってごめんなさい」 

 「私こそ、なんだかすいません」 

 私たち二人は沈黙した。 彼はきっと私との話を打ち切って去ってしまうだろう。 けれども彼は今までのその他大勢の人たちのように通りすぎる人では終わってくれなかっ た。

 「ああ、そういえば、せっかくなので君に教えておきたいことがもう一つ。月うさぎの話 は知っていますか? 」 

 急に話を振り始めた彼に私は困惑した。 

 「月うさぎですか? 」 

 「そうです。月にはうさぎが住んでいるっていう話があるでしょ? 」

 「たしかに。でもうさぎのようには見えないです」 

 「そうですよね。月に、うさぎがいるというのは中国や日本の考え方であって、外国はカ エルに見えたり、女の人の横顔だと思っていたり、いろいろな見方があるんです」

 私は彼の予備知識になるほどと思った。 月を一つ取っただけでもそれだけの見方があるのだ。 

 「でも僕は月にはうさぎが見えるって信じてます」 

 彼の真剣な眼差しに今度は私が戸惑った。

 「それは、どうしてですか? 」 

 「それは誰よりも鈍臭くて、バカ真面目で、不器用だったうさぎが、その身を投げ打って 人の命を助けたから。だから僕は月に見えるうさぎを大事にしたいと思うんです」 

 ウェイターはにこりと微笑んだ。 
私はその微笑みがとても愛らしいような気持ちになり、胸が締め付けられる。 これは単なる彼に言葉がたまたま私の胸に響いただけかもしれない。 
けれども、私にとってうさぎに自分を重ねていけるような気がした。

 「私、あなたが好きなうさぎのようにもう一度、頑張ってまたここへきます。鈍臭くて、 バカ真面目で、不器用だけど、もう一度、頑張ってみます」

 私は残っていたコーヒーを飲み干すと、お金を机の上に置いた。
 私がきっちりとお金を払ったことを確認すると彼はニコっとわらってぺこりとお辞儀をし た。 私も彼に微笑み返す。
 私は、カフェのドアをしっかりと握って開け放つと空を眺めた。 
相変わらず、真昼の万丸い月にはうさぎと思われる模様がそっと私を見つめている。
 いつか私もあのうさぎのように頑張ろうと足を踏み出した。


 *


 ウェイターは彼女の残したお代とコーヒーカップを片付けながら、彼女の去ったドアを眺 めていた。 「僕も、彼女に負けないよう頑張ろう。僕らの心の中にはいつも月うさぎがいるから。そ れが一番、肝心なことさ」 そう呟いた彼は静かにコーヒーカップを持ってカウンターへと去っていった。

2022年6月5日日曜日

長編小説 在明の未来(ありあけのみらい)

【はじめに】

 「在明の未来(ありあけのみらい)」僕 調宮知博が書いた長編小説です。

この作品のジャンルは、何か?
作者としては、ハートフルヒューマンドラマだと考えています。
昨今は、「自殺」についてや「子供への虐待死」など様々な本当は救えるはずだった、または死ななくてもよかった命が消えゆく事件がたくさんありますよね。
そのニュースを聞くたびに「生きる」って何なのかな?「生と死」ってなんなのかな?とかいろいろ考えさせられます。
その中で社会全体は、大昔ほどに「生まれてくることへの喜び」とか「生きている実感」など「生きる」ことへの価値観が薄れていく、まるで空気をどんどん抜かれていく部屋の中にいるみたいな息苦しさを感じることが多々あります。
その中で生きるとは何か?
今の僕なりの答えをこの作品で投影できたらと思い、書き上げました。


【あらすじ】


産むはずではなかった子供。

ある女性は、望まない妊娠から一人の女児を出産した。

捨て去りたかった命。

しかし、彼女はその子を見捨てることはできなかった……


時は経ち、18歳の雨宮未来は、唯一の家族である祖父が他界。

一人ぼっちとなってしまう。

その悲しみにくれる未来の前に、養子縁組に関する仕事をしている女性、

山崎晴子が現れる。


「あなたはお爺さんと先に亡くなったお婆さんのお子さんではありません」


少女は家族が隠していた事実を知る。

祖父母との思い出、親戚、部活の仲間、再会した旧友……

様々な人たちの関わりや想いの中で迷いながらも、過去と向き合うことを

決める未来。

過去と向き合ったことで未来が知ったこと、見つけたこととは?


自身の出生と託された想いの数々に向き合うハートフルヒューマンドラマ。


【みどころ】

・主人公 未来(みらい)の葛藤と仲間たちに支えられながら見つける自分自身への問いと答えはいろいろな人に通じるものがあると思います。

・この作品が「生きる」とは何かと悩んでいる方の励みになれば幸いです。

 





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【本の内容】

製本サイズ:A6

ページ数:400

表紙加工:カラー

本文カラー:モノクロ

綴じ方:無線綴じ


 

2022年6月1日水曜日

中編小説 一日千秋 〜あなたをずっと待ってました〜

event_note6月 01, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

【はじめに】

「一日千秋〜あなたをずっと待ってました〜」は僕 調宮知博で書いた中編小説です。

この小説は恋愛や青春をテーマにした小説でピュアなストーリー展開となっています。

僕がこの小説を書くきっかけになったのは大阪で2018年に起こった大阪府北部地震でした。地震発生時、劣化していた小学校のコンクリートの壁が倒れてきたことで亡くなった一人の女の子がいました。繰り返されるニュースの中で、あの時間、あの場所にいなければその子の運命は大きく変わっていたのだと思うとすごく胸が苦しくなったことを覚えています。
僕とその出来事については、全くと言っていいほど、関わりはありません。それでも心に深く刻まれた出来事でした。その中で今ある時間と目の前の人に会えている事実はかけがえのないものなのだとこの小説を読むことで改めて思ってもらえたら幸いです。


【あらすじ】

高校二年生の大桐 縁(だいどう えにし)は、十五年前に起こった東部大震災の時に負った額の傷が原因で、幽霊が見える体質になった。

体質を周囲の友達や家族に隠しながら日々を過ごしていたある日、高校の教室で独りの女の子に出会う。その女の子は、見覚えのない生徒だった。誰かと訝しむ縁だが、彼女は忽然(こつぜん)と姿を消してしまう。

それからしばらくして放課後に女の子と会う縁はそこで彼女が幽霊だという事実に気づく。

幽霊の女の子(本庄 璃子)は誰かを教室で待っているようだ。

果たしてその誰かとは?十五年の時を経て叶う青春恋愛ストーリー。

 

【みどころ】

・大阪府北部地震で亡くなった小学生の女の子の不運がどうしても忘れられず、その想いを小説に書きたいと思い、書いた小説です。

 

・キャラクターの話やストーリーの展開など面白い展開や泣ける展開にもなっているのでぜひいろいろな場面を楽しんでもらえたらと思います。

 

 

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