創作とコラムを発信するブログ

2022年6月29日水曜日

蘇後路苦(すごろく)

event_note6月 29, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

 

戻ってみたり

行ってみたり

前に進むことがない

僕の駒


みんなみんな

早く上がっていく

僕を差し置いて


じゃあね

バイバイ

先に帰るみんな

僕は双六版と二人ぼっち


サイコロを振る

始めからやり直し

3歩進んだ

2歩戻される


悔しいから

自棄になって

また振るけど

上手くは行かない


恨んでみたり

嘆いてみたり

気付いたら自分ばっかり馬鹿みたいだ


匙を投げた

でも諦められなくて

また振り直す


人生ゲームなら

楽だったかな

いっそ遊ばなければ良かった


それでもサイコロを

手放さない

次は上手く行くと思いたいから

サイコロを持つのは僕

振るのも僕

必死で抱えてきた

結果がどうであれ

これからも振り続けるだろうな

起こる事は違っても

僕の道だから

塩辛さとほろ苦いビターチョコ

event_note6月 29, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

 

「いらっしゃいませ! 」


茶髪の長い髪の子が、元気よく声を出している。 

とても小さくて整った鼻と色白の肌はまるでおとぎ話にでも出てきそうな雰囲気だ。 

入ってくる客もさぞかし気持ちがいいだろう。

 雰囲気は高校生だけど、多分、髪を染めている時点で大学生の可能性が高い。

 そんな分析を朝からやっているくらいに僕の脳みそは暇を持て余していた。

 ここは高校の近くにあるコンビニである。

 ここでご飯を買って学校に行く生徒が多いため朝の八時頃は大勢の学生で賑わっている。

 けれども今はまだ七時過ぎ。


そんなにお客もいない。


店内は閑散としている。


僕がこの空間にいるのは場違いなくらいにだ。 少々、気まずさを覚えながら雑誌コーナーで好きな漫画を見つけると僕は立ち読みを始めた。

途端に欠伸が出る。

それにしても眠い。 部活があるわけでもなく、勉強をするわけでもなく、僕は朝早くにこのコンビニに来る。 理由はただ一つ。
待っている人がいるからだ。
名前も知らないし、歳も知らない。

 ここは僕の高校の他にもう一つ、私立と公立がある高校密集区だからどの高校にいるのか も知らない。 

ただわかっているのはいつも胸のところに『籠球』と書いたジャンバーを羽織ってこのコ ンビニに友達とやってくるということだけだ。 

僕はその子見たさにいつもこうして早起きしている。

 きっかけはそう、たまたま目が覚めてこのコンビニにご飯を買いに来たときだ。

 下宿に住んでいるのだが、部屋は狭く落ち着いてご飯を食べる気にもなれない。 

だから僕はいつも学校の教室でご飯を食べたり、外食することがほとんどだ。 その日は学校に行くのは早いけれど、誰もいない教室で朝ごはんにすることを考えていた。

あの日の出来事を僕は雑誌を読むふりをしながら振り返る。


*     *       *


その日はなぜか目が覚めて朝早くに学校へと向かうことにすると、近くにあったコンビニ
に寄った。
朝ごはんはまだだ。僕は、そのコンビニでおにぎりとサンドイッチを買うことにしたの
だ。
安定のツナマヨ、美味しそうに見えたカルビ丼のおにぎり、タマゴサンド、そしてお茶を
手に取る。
お弁当と飲み物をレジまで持って行き、会計を済ますと、寝不足の頭でぼうっとして上を
見上げながらコンビニの自動ドアを出た。
ああ、学校に着いたらちょっとうつ伏せになって寝よう。
すると、いきなり僕の胸に何かがぶつかった衝撃が走る。

「うわっ! 」


「きゃっ! 」


僕は店内で、相手は入り口前でお互いに尻餅をついた。

 衝撃で投げ出されたスマートフォンがコンビニ前のゴミ箱の前へ飛んで行く。 

「いったあ!!どこ見て歩いているの?」 

ポニーテールでキリッとした目つき、眉毛もシュッとした顔つきをしているので、怒ると ちょっと怖いけれど、肌艶はよくわりかし美人に見える女子高生だ。

 女の子かあ。面倒だな。


直感的にそう思った。 恋愛漫画でこういう場合、すごく素敵なストーリーに発展するけれど、現実では、相手も 僕もただただ迷惑というか面倒なだけだ。


どうやって謝ったらいいかな。 必死にこの状況の気まずさを妥協することを考えながら僕は彼女を見た。

 「痛たあぁ......」 

彼女はスカートの中を盛大にこっちに見せるような格好で脚を開いて、尻餅をついてい る。


おかげでスカートの中に履いている水色のパンティーは僕の方から丸見えだった。 白いレースが凛々しい見た目に似合わず、可愛らしい。 女子高生にしてはえらくセクシーな下着だなと見とれてしまった。 

「あなたね、何ぼけっとしてるの? 」


怒っている彼女に今やっと気づいた。


「え、えっとごめん。ついぼうっとしていて」 

パンティーを見れなくなるのは名残惜しかったが立ち上がって僕は彼女に手を差し伸べた。


「あの
......ごめん、ほんと。立ち上がれる? 」 

彼女は僕の手を使わずに立ち上がるとスカートについたホコリを払い、自分のスマートフ ォンを取りにゴミ箱前まで行った。 

「あんたねえ、目の前くらいちゃんと見なさいよ!!」


まずい。カンカンだ。


彼女は目を三角にして僕に指を指して近づいてきた。 

相手もスマホを操作してたし、お互い様じゃないか。 

そう言いたかったが、この迫力だ。

 きっと僕の言うことは全く聞き入れてはくれないだろう。

 その時、彼女の足元からぐちゃりという嫌な音が聞こえた。

 二人とも彼女の足元を見る。 見ると、僕が買ったおにぎりとサンドイッチはぺちゃんこだった。 お茶は無事だったが、見事に凹んでいる。
どんな力で踏んでるんだ、この子は。


「ご、ご、ご、ごめんなさーい」 

僕よりも女の子の方が僕の朝ごはんを潰してしまったことにショックを受けたらしい。

 勢いよく頭を下げた。

「べ、べつに大丈夫だよ。また買えばいいし、僕もぼうっとしてたのが悪いからさ」

あ、形勢が逆転した。
僕は密かに心の中でふうっと落ち着くと、冷静に対応した。
しかし、彼女は納得がいかなかったらしい。とても真剣な顔つきで何か考えるように腕を
胸元で組んだ。

「たしかに貴方も悪いけれど、貴方の昼ごはんダメにしちゃったのは、私だし、なんか私
が奢らないとフェアじゃないわ」


フェアじゃない。
僕はパンツを見れただけで十分、フェア以上なのだけど。 なんてそんなことを言うものなら僕はこの子になんの罪を着せられるかわからない。 僕は唖然として彼女をみた。 彼女は立ち尽くす僕になにも言わせず、袋の中身を確認すると、コンビニの中に入る。 ひょいひょいと買う物を決めると、レジに行って会計を済ませてしまった。 その間、僕は女の子の華麗な動きをただ眺めるだけだった。 僕の分と合わせて、自分のご飯も買ってしまっている。きっとよくここにくるんだなとい うことが彼女の動きでわかった。

 「はい!あ、タマゴサンドは売り切れてたから、ミックスにしたけれどその方が健康にい いでしょ?」


「あ、うん、えっと
......ありがとう」 

笑顔で袋を手渡してくれる彼女の表情に僕の視線は釘付けになる。 その拍子に僕の心はあっという間に彼女に奪われてしまった。 「あ、それとお礼に私の持ってたチョコレートつけておくね」 ポケットからロッテのチョコレートを取り出して袋に入れる。

 「じゃあ、私、朝練あるから行くね」


彼女が去る間際、買った中身を確認した。


サラダとおにぎりか。 一緒にご飯が食べれるとは限らない。けれども、一か八か声をかけてみよう。 

「あ、あの!待って! 」


「え? まだ何か用? 」


女の子は少し面倒そうだ。

 「えっと...もし良かったら僕と朝ごはん食べないかな?せっかく買ってくれたし、誰かと ご飯食べたら美味しいんだけど」


「は? 私、朝練だって言ってる
......」 

の子のまくし立てる声とは裏腹に彼女のお腹はググーっと鳴き声をあげた。恥ずかしそ うにお腹を抑える。


やった。


一か八かの賭けに勝った!


「そこに公園があるからさ、どうかな?」

 「分かったわよ。そこまで言うなら一緒にご飯でも付き合ってあげる!なんかぶつかった 縁だし!」


女の子はちょっと面倒ながらも僕の案に乗ってくれた。
よし!今日はついてる! 心の中でガッツポーズをしながら僕は女の子とともに近くの公園にあと向かった。

朝の公園はまだ、誰もいない。
朝の公園に女の子と二人きりだなんて夢みたいだ。 

そんな浮き行き気分で彼女と公園のベンチに腰を下ろした。

 しかし、彼女は座るなり、コンビニの袋の中のおにぎりとサラダを手早く取り出してパク パクと食べ始めた。 

一通り急いで食べるとカバンから水筒を取り出して食べたものを流し込む。 

彼女は女の子なはずなのに、なんだろう......僕より勇ましい。 そして彼女は立ち上がった。

「そんなに急いで食ったら喉詰まらすよ」 

「平気!君はゆっくりしてていいよ。私は朝練行かなきゃいけないし」

 そういって鞄を背負うと彼女は歩き出した。
もっと話がしたかったのに。 一人ぼっちで置いて行かれる僕は切なげに、その背中を僕は見つめることしかできなかっ た。


*      *      *


そして今、僕はその子に会えないかとこうしていつもあの時会ったコンビニにいる。 彼女は今日も来ない。

きっとあの日は特別だったんだ。 

そう思って今日も僕はコンビニを出て、学校へ向かおうと思っていた。

 雑誌を置こうかと、ページを閉じて雑誌棚にしまおうとしたその時だった。

 手を繋いだ高校生のカップルがコンビニの入り口に入ってきた。

 その時、僕は目を疑った。 あの時、朝ごはんを弁償して公園で一緒にご飯を食べてくれた女の子は同じバスケ部の部 員であろう男子と一緒に手を繋いでいたのだ。

僕はこの時、必死で見ないふりをした。 彼女たちはお弁当コーナーで一緒にお弁当を選んでレジへ持っていくと仲良くまたコンビ ニを後にしていった。

彼女たちが出て行くまで僕は全く動けなかった。

 彼女はきっと僕のことなど覚えてはもういないのかもしれなかったけれど、気づかれるの が怖くてそっと息を潜めて雑誌コーナーの前で雑誌を読むふりをした。 

僕は彼女たちが出て行った後、どこを通った記憶もなくいつの間にか学校にいた。

 そして自分の教室で向かう途中、僕はトイレに寄った。 

個室に入り、勢いよく戸を閉めると便器に座り、俯せになって泣いた。

 そしてポケットからあの日、もらったビターチョコレートを食べる

 あの子からもらったビターチョコレートは、とてもとても苦い味をしていた。

口の中がカ ラカラしてそのために苦さと塩辛さが混じってさらに嫌な味になった。

 声に出ない涙を流して、鼻水は備え付けのトイレットペーパーで拭いた。 その日から僕はビターチョコレートが大嫌いになった。



2022年6月27日月曜日

初詣

event_note6月 27, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


 

2022年6月22日水曜日

【第一回】夏目漱石から見る「鬱」は自分探しの旅のはじまり

event_note6月 22, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


1 夏目漱石とは?

今回は、夏目漱石を紹介していこうと思います。
みなさんは夏目漱石というと「吾輩は猫である」のイメージが強いのかなと思います。
偏屈な作家とその日常を猫目線で見るという一風変わったその作品は明治を代表する文学の一つですね。
甘いものが好きな私は、作中の先生がジャムをスプーンで舐めていると必ず家内に怒られるという話を読んで同じことをよくやりがちなので笑ってしまいました。
他にも「こころ」や「坊っちゃん」など様々な文学作品を遺した偉大な作家である夏目漱石ですが、文豪として活躍する以前には暗い過去がありました。
そんな夏目漱石が残した言葉にこのような言葉があります。


2夏目漱石が遺した言葉


「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」




3精神が病んだ過去


彼はなぜ、そのような言葉を残したのでしょうか?
漱石は、常に「空虚」な心の内を抱え、ずっと己が何者なのかに悩んでいました。

当時としては有名な学校を卒業し、教師という仕事に就くも、その仕事に対してやる気を持てなかったようです。常に彼の中には今の自分でいいのかという悩みがありました。そんな彼は、英語を研究するために、イギリスへの留学を命じられます。漱石は留学のためイギリスを赴くも、さらにそこで日本人と欧米人のギャップを肌身で感じ、心が病んでしまいます。

留学先で観光をするわけでも、仲間を作るわけでもなくただただ英語文学の研究に没頭して邁進するあまり、彼はついに精神疾患を発症してしまいます。

その後、留学を終えて帰国した彼は以前と同じく教鞭に立つも、精神状態は安定しないことばかり。つい学生への叱責なども増えてしまっていたそうです。そんなある日、ある事件が起こってしまいます。漱石に叱責された学生の一人が入水自殺してしまうのです。
漱石としてはカオスな心のうちをさらに闇へと突き落としてしまうような現状だったと思います。そんな精神状態が最悪な時、正岡子規の弟子である高浜虚子から療養として文学を勧められます。初めて書いた小説が文豪への道を開きます。
そこで生まれたのが処女作、「吾輩は猫である」だそうです。それから彼は文学に没頭して、今でも有名な小説として残る作品を数多く執筆していきました。

漱石は、文学と出会ったことでこう表現しています。

「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」

漱石は文学を作ることでやっと自分の道というものを見つけたようです。

4夏目漱石の人生が遺したもの


夏目漱石は精神衰弱や胃病に苦しめられて生涯を閉じました。
夏目漱石が抱える「鬱」とはなんだったのか?
それは病気というよりも、「本当の自分とは?」という問いかけを加速させるブレーキ装置だったのかなと考えています。
現在では「効率化」や「計画的」「生産性」が求められていく時代です。
ひたむきにその目標に向かっていく努力は大切ですが、それを強いて自分の生きている目的から離れてしまうのはかえって個人として良くないことなのかもしれません。
人生は短いけれども、長いものです。
だからこそ、自分探しというものをやめてはいけないと感じます。
そこで何に向き合い、何を感じ、何をしたのか。その一つ一つの積み重ねが人生です。大人になろうとも、老人になろうとも真の自分自身を探究し、発見しようと努められる人が素晴らしい人なのではないかなと僕自身は思ってます。

5夏目漱石と言葉


人間にとって表現をするというのは必要なことです。
息抜きには、休息と運動と芸術活動の3つが揃ってこそ自分を回復できるともいいます。
なかなか仕事にするということは難しくても、文章を書く、絵を描く、楽器を演奏する、歌を歌うなどいろいろな芸術の中に自分を見出していくのも大事なことです。
人生にちょっと退屈や行き詰まりを感じたら、今のあなたは、自分らしいあなたではないのかもしれません。
そんな時は漱石のいう「進むべき道」を探すことをしてみてはいかがでしょうか?













優しさの花

event_note6月 22, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


僕の悲しみよ

積もり積もれ

僕の苦しみよ

積もり積もれ


そうしたら


暗雲がたちこめて

雷が鳴り響き

雨が降り出して

傷だらけの大地に

降り注ぐ


そこに僕は優しさの種を植える


僕の悲しみよ

育て育て

僕の苦しみよ

育て育て


そうしたら


傷口に根を張って

水を吸い取り

大きく強く

葉や茎は伸びる


そしていつか優しさの花が咲く

それが僕の人生だったら

きっと美しいだろう

そうなれるように

歩いている

今この時を

この先を

2022年6月16日木曜日

想像

event_note6月 16, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

夜を泳ぐ黒猫(詩)

event_note6月 16, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


私は猫


夜を泳ぐ


昼間のさばる


人間どもは


夜の魔法にかけられて居なくなるから


静かな夜に私は繰り出す


ニャーニャーニャーと歌おうが


道路をスィーっと渡ろうが


何にも縛られることはない


自由に夜を泳ぐ


私の夜の海


身体は黒いから


闇に紛れてさらに良い



誰も居ない夜ならば


クロールだって


バタフライだって


なんでもできる


なんだって


寂しくなんてないんだよ


街灯の蛍だっている


お月様だってお星様だっている


悲しくなんてない


夜の海は私に優しいから


夜は私に何も言わない


誰も何も言わない


ただ静かに優しく包んでくれる


優しいあなただから私はあなたが好き


夜が好き


だから私はあなたがいない昼をやり過ごす


そして太陽が沈むと喉を鳴らして歌うんだ


喜びと感謝を込めて


私の勝手な夢だとしても


目覚めたくはない


だってあなたは私を許してくれるのだから


何も言わない代わりに包んでくれるのだから


2022年6月7日火曜日

伸びてゆけ! タンポポ

event_note6月 07, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


 

月うさぎは僕らの中に

event_note6月 07, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments
外は眩しいくらいに日の光が反射している。 
 そのくせ、私はこの暗いカフェの中でひっそりとコーヒーがくるのを待っていた。
 カバンに入っているPCやスケジュール帳なども開こうとせず、ただ窓から外の光を伺い、 そして店内へと視線を移してはまた窓の光に視線を戻す。
 私の目には、その光は眩しかった。 
 さらに、店内に目を戻すこともまた私の目には眩しかった。
 今年の春に目指していた大学を卒業するも、世間は私に冷たかった。
今も仕事先を探して いるが、なかなか仕事は見つからない。
 そのうちに私の中で何かが崩れていくような音がしていた。
 でもここ数週間、私がこのカフェに通うことが心の雪崩を唯一、食い止めてくれている。
 私はカフェに通う理由が近づいてくるのをそっと気がつかないフリをした。 

「お待たせしました」 

私よりも少し歳上のウェイターの声が響く。 
私は恥ずかしげにありがとうございますと小さく会釈をした。 そしてそのコーヒーカップをゆっくりと落ち着いて持ち上げた。 黒い液体が微かにゆらゆらと揺らめく。 ゆっくりと時間をまずは味わうようにコーヒーカップを傾けていった。 コーヒーは口元からゆっくりと体に染み込むように入っていく。 私の人生は決して冴えることもなかったけれども、心は冴え渡っていくような感覚を覚え た。 そんな私のコーヒーを飲む姿を少し眺めたあと、我に返ったようにウェイターは会釈をした。 

 「失礼します」 

 ウェイターは立ち去ろうとする。 きびきびと動くその動作と身なりに私は少なからず、かっこよさを感じていた。 せっかく近づいた彼は私の元をまた離れて行ってしまう。 私は、どうしようかと躊躇したが、意を決して背中に向かって声を出した。

 「あの......」

 ウェイターは私が呼び止めたことに驚き、ピンと背筋を伸ばすと、振り返った。顔は少し 何か粗相があったのだろうかという困惑が見られる。 

「どうかされましたか? 」 

急に引き戻されてきた彼の視線に逆に私は何を答えていいのか戸惑った。 

 「あのー、今日は、あんまり混んでいないんですね」

 私は、取り止めのない話をする。 違う。話したいことはそんなことではない。 ウェイターは明らかに戸惑った顔で私を見ながらそれでも、優しい声で答えてくれた。

 「ええ、今日は平日の昼間ですから。逆にお客様はラッキーです。今はこんなにがらんと してますが、夜になると混みますから」

 チラッとウエイターは背後のカウンターの方を見た。私も釣られてみると、きれいに並べ てあるお酒が目に入る。 この人もお酒が好きなのだろうかと私はふと思った。 しかしこれ以上、私は彼を引き止める術を知らない。 私は無口になる。 特に忙しそうにない店内と店主の方をちらりと見たウェイターは、意外にも私の席から離 れることはしなかった。

 「あの、失礼ですがよくここの席に座っていらっしゃいますよね」

 ウェイターは私にそう尋ねてきた。 たしかに私はこの席によく座っている。 その理由はどこよりもこの店内の見晴らしがいいからであるが、私はその真実を話すこと はできなかった。 

 「ええっと......その、窓が近いからです」

 私は少し頬が熱くなるのを感じる。 そんな私の気も知らずに、ウェイターはなおも話を返してくれる。しかし、その答えは私の予想を斜め上に行くものだった。 

 「外の景色を見たいならあちらの方がより見えますよ! 」 

 ウェイターはそういうとさらに大きな庭園が見える窓を指さした。 しまった。私は、戸惑う。 しかし、ウエイターは笑って答えた。悪戯好きの少年のような笑顔だ。

 「でもまあ、ここから見える窓の景色も格別ですよね。僕は、いつも見える月の景色が好 きなんです」 

 ふうっと胸を撫で下ろす。 この席ではない場所に連れていかれるのはいろいろな理由でどこか落ち着かなかった。
私はウェイターの言葉に窓の外を見る。そう言われてみれば、この窓は、晴れていると不 思議と昼間の月がよく見えた。
 私は窓の方を見るとぼんやりと見える真昼の月は私たちを窓から覗き込むように空から見 下ろしていた。 

 「......月ですか? 」

 私は首を傾げた。夜の月が好きならまだしも昼間のぼんやり見える月が好きなんだ。 彼のロマンチストな一面を知った気がしてつい気持ちが浮き足立つ。

 「月は夜でも明るいけれども、いつだって明るい星だからこそ、昼間でも輝いてみえるん です。本来は、夜の外灯に群がる虫たちも電気の光がなければ、月の光を頼りに集まるら しいです。つまり月は道標なんです」 

 「でも、それって虫は私たちのせいで道標を失っているってことですよね」 

 「そうですね。そう考えると虫たちはちょっとかわいそうなのかもしれませんね」 

 何気ない彼の言葉の中で私はつい、辛い過去を思い出していた。 
彼の言う虫という言葉を聞いて私は学生の頃の私を思い出した。
 私の鈍臭さから私は中学生の頃、グズムシと言われて馬鹿にされていた。
 今思えばとてつもなく変なネーミングセンスだ。
 どうせ自分たちと違って見劣りする何かに対して線引きをしたいだけなんだろうと思う。
 何をやっても下手な私を見て、いつも私のことを影でバカにしていた。
相手は面白そうに 言うけれど、私の耳や目にはあの声と顔が脳裏に焼き付いている。
 あいつ、鈍臭くてうざ こっち見ないで欲しい うわあ、気持ち悪 彼らは口々にそういって私を蔑んだ。 私にもきっと悪いところはあったと思う。
けれども私はいつの間にか彼らの中で目下の存 在になっていた。
 私は、彼らの心ない言葉がいつしか胸に刺さって刺さって抜けなくなっている自分に気づ いている。 気づいているけれども、その刺を未だに抜くことができない。
 いつしか眩しい灯りに近づきたくてもその灯りを這う虫のような存在でしか私はいられな いのかもしれない。 その思いはずっと私の中にあったものだ。 

 「それじゃあ、私はその虫のような存在なのかもしれませんね」

 つい、私はそんなふうに彼に言い放ってしまう。 しまったと思った。 彼は私のその言葉に何か迷惑なことを言ったと思ったのか慌てて右手を大きく振ると謝っ た。

 「いいえ、僕の方こそ、なんだか失礼なことを言っちゃってごめんなさい」 

 「私こそ、なんだかすいません」 

 私たち二人は沈黙した。 彼はきっと私との話を打ち切って去ってしまうだろう。 けれども彼は今までのその他大勢の人たちのように通りすぎる人では終わってくれなかっ た。

 「ああ、そういえば、せっかくなので君に教えておきたいことがもう一つ。月うさぎの話 は知っていますか? 」 

 急に話を振り始めた彼に私は困惑した。 

 「月うさぎですか? 」 

 「そうです。月にはうさぎが住んでいるっていう話があるでしょ? 」

 「たしかに。でもうさぎのようには見えないです」 

 「そうですよね。月に、うさぎがいるというのは中国や日本の考え方であって、外国はカ エルに見えたり、女の人の横顔だと思っていたり、いろいろな見方があるんです」

 私は彼の予備知識になるほどと思った。 月を一つ取っただけでもそれだけの見方があるのだ。 

 「でも僕は月にはうさぎが見えるって信じてます」 

 彼の真剣な眼差しに今度は私が戸惑った。

 「それは、どうしてですか? 」 

 「それは誰よりも鈍臭くて、バカ真面目で、不器用だったうさぎが、その身を投げ打って 人の命を助けたから。だから僕は月に見えるうさぎを大事にしたいと思うんです」 

 ウェイターはにこりと微笑んだ。 
私はその微笑みがとても愛らしいような気持ちになり、胸が締め付けられる。 これは単なる彼に言葉がたまたま私の胸に響いただけかもしれない。 
けれども、私にとってうさぎに自分を重ねていけるような気がした。

 「私、あなたが好きなうさぎのようにもう一度、頑張ってまたここへきます。鈍臭くて、 バカ真面目で、不器用だけど、もう一度、頑張ってみます」

 私は残っていたコーヒーを飲み干すと、お金を机の上に置いた。
 私がきっちりとお金を払ったことを確認すると彼はニコっとわらってぺこりとお辞儀をし た。 私も彼に微笑み返す。
 私は、カフェのドアをしっかりと握って開け放つと空を眺めた。 
相変わらず、真昼の万丸い月にはうさぎと思われる模様がそっと私を見つめている。
 いつか私もあのうさぎのように頑張ろうと足を踏み出した。


 *


 ウェイターは彼女の残したお代とコーヒーカップを片付けながら、彼女の去ったドアを眺 めていた。 「僕も、彼女に負けないよう頑張ろう。僕らの心の中にはいつも月うさぎがいるから。そ れが一番、肝心なことさ」 そう呟いた彼は静かにコーヒーカップを持ってカウンターへと去っていった。

2022年6月6日月曜日

覚えていますか? 環境問題に大事な3R


 

 


 今回は、勉強記事として3Rについての話をしたいと思います。

みなさんは、学校や職場などの環境問題について勉強した際に3Rという言葉を一度でも聞いたことがあると思います。今では3Rではなく、4R、5Rとより以前より多くのRが提唱されていることをご存知ですか?

環境問題を改善するには、これからの10年が正念場だと言われています。
たった10年で今までの暮らしを続けることが難しくなる。そんな事実を急には実感しづらいとは思いますが、以前はこんなに一気に変わるような気候じゃなかったのに? などと思うことが日に日に増えている気がします。そうなると、もしかしたら地球に住むことが厳しい未来もありうるのかなと感じてしまいますね。

それでは私たちはどんなことに気をつけていけば良いのでしょうか?
気をつけていけば良いことを3Rでこの記事でもう一度、振り返ろうと思います。
いや、そんなのばっちり?
まあ、そんなこと言わずにお付き合い願えれば幸いです。


3Rとは?

・リデュース(Reduce)→減らす
物を大切に使ってゴミを減らす考えです。
一例としては、現在は、だいぶ浸透してきましたが、マイバックを持参することがまず一つに挙げられます。1000円〜1500円ほどでチャックがついているトートバックが売られていたり、円形のストラップに折りたたんで持ち運べるものなど、現在はかなり便利なグッズが出ています!僕のおすすめを二点、貼らせていただきますね!



・リユース(Reuse)→繰り返し使う
身の回りのもので、これは捨てずにとっておけば使いまわせるもの、ありませんか?例えば今は詰め替え用の製品が数多く出ていますね。毎回、ボトルで買う方が安かったりしてついつい使いまわせるものを捨てたりしてはいないでしょうか?身の回りで考え直すことが大事になってきますね。

 

・リサイクル(Recycle)→再資源化する
例としてペットボトルは、近年では様々なリサイクルが行われています。
ペットボトルは、破砕・洗浄・脱水・乾燥などを行ってペットフレークというものを作り、そこから繊維製品やシートに再利用されてきました。
例としてユニクロはペットボトルの繊維からドライポロシャツを作っているようです。

その他のR

実は、今はもう3Rだけでなく、様々なRが推奨されています。
例えば、Refuse(拒否する)を加えた4R、さらにRepair(修理する)
を加えた5Rもキーワードとして広まりを見せています。

その他にも下記のようなたくさんのRが存在しています。本当にいろいろな言葉があるんですね!この中の一つでも多く、僕たち一人一人実践していきたいですね!ちなみに下記はWikipediaから引用したものなので引用先も掲載しておきます。

Remix
(リミックス:再編集)新たな創造のために既にある資源を再編集する
Refine
(リファイン:分別)廃棄するときには分別する
Rethink
(リシンク:再考する)自分に本当に必要なものかどうか考える
Rental
(レンタル:借りる)個人として所有せずに借りて済ます
Return
(リターン:戻す)携帯電話など使用後は購入先に戻す
Returnable
(リターナブル:戻す)Returnにほぼ同じ。用例:リターナブル瓶(飲料水)
Reform
(リフォーム:改良する)着なくなった服などを作り直す
Reconvert to Energy
(リコンバート・トゥ・エナジー:再返還する)利用できないゴミは、燃やす時の熱を利用する
Rebuy
(リバイ:買う)リサイクルされたものやリユース品を積極的に購入または利用する
Regeneration
(リジェネレイション:再生品)再生品の使用を心がける
Reasonable management(Right disposal)
(リーズナブル・マネジメント(ライト・ディスポーサル):適正処分)正しく、環境にそった処分をする。
Recreate
(リクリエート:楽しむ)または Refresh with Green-Break:(環境保全型余暇を満喫する):環境保全型余暇や自然保全型余暇を満喫することは、潜在的な自然体験欲求の充足のみならず自然環境の保全にも役立つ
React
(リアクト:響き合う)または Diffuse:(ディフーズ:広める):自然をわかち合う(シェアリング ネイチャー)機会や場面を増やす事によって環境共育に働きかけることができる
Restore
(レストア:復元する)または Reforest:(レフォレスト:再植林する):自然環境の復元や生態系サービスの持続的利用は人類が生きながらえる為の重要な要素である

モノを買ったり捨てる時に思い出して!

いかがでしょうか?
3Rはどんどんいろいろな言葉が出てきていますが、結局は僕たちの考え方や行動次第にかかっています。
商品を買ったりする時は、一歩立ち止まってもっと長く使えたりしないだろうか? 直せない? 無駄なものを買ってはいないだろうか? などいろいろとこの記事を読んで改めて考えてもらえたら嬉しいです!


 

2022年6月5日日曜日

真夜中に踊るコスモス

event_note6月 05, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

長編小説 在明の未来(ありあけのみらい)

【はじめに】

 「在明の未来(ありあけのみらい)」僕 調宮知博が書いた長編小説です。

この作品のジャンルは、何か?
作者としては、ハートフルヒューマンドラマだと考えています。
昨今は、「自殺」についてや「子供への虐待死」など様々な本当は救えるはずだった、または死ななくてもよかった命が消えゆく事件がたくさんありますよね。
そのニュースを聞くたびに「生きる」って何なのかな?「生と死」ってなんなのかな?とかいろいろ考えさせられます。
その中で社会全体は、大昔ほどに「生まれてくることへの喜び」とか「生きている実感」など「生きる」ことへの価値観が薄れていく、まるで空気をどんどん抜かれていく部屋の中にいるみたいな息苦しさを感じることが多々あります。
その中で生きるとは何か?
今の僕なりの答えをこの作品で投影できたらと思い、書き上げました。


【あらすじ】


産むはずではなかった子供。

ある女性は、望まない妊娠から一人の女児を出産した。

捨て去りたかった命。

しかし、彼女はその子を見捨てることはできなかった……


時は経ち、18歳の雨宮未来は、唯一の家族である祖父が他界。

一人ぼっちとなってしまう。

その悲しみにくれる未来の前に、養子縁組に関する仕事をしている女性、

山崎晴子が現れる。


「あなたはお爺さんと先に亡くなったお婆さんのお子さんではありません」


少女は家族が隠していた事実を知る。

祖父母との思い出、親戚、部活の仲間、再会した旧友……

様々な人たちの関わりや想いの中で迷いながらも、過去と向き合うことを

決める未来。

過去と向き合ったことで未来が知ったこと、見つけたこととは?


自身の出生と託された想いの数々に向き合うハートフルヒューマンドラマ。


【みどころ】

・主人公 未来(みらい)の葛藤と仲間たちに支えられながら見つける自分自身への問いと答えはいろいろな人に通じるものがあると思います。

・この作品が「生きる」とは何かと悩んでいる方の励みになれば幸いです。

 





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【本の内容】

製本サイズ:A6

ページ数:400

表紙加工:カラー

本文カラー:モノクロ

綴じ方:無線綴じ


 

2022年6月1日水曜日

中編小説 一日千秋 〜あなたをずっと待ってました〜

event_note6月 01, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

【はじめに】

「一日千秋〜あなたをずっと待ってました〜」は僕 調宮知博で書いた中編小説です。

この小説は恋愛や青春をテーマにした小説でピュアなストーリー展開となっています。

僕がこの小説を書くきっかけになったのは大阪で2018年に起こった大阪府北部地震でした。地震発生時、劣化していた小学校のコンクリートの壁が倒れてきたことで亡くなった一人の女の子がいました。繰り返されるニュースの中で、あの時間、あの場所にいなければその子の運命は大きく変わっていたのだと思うとすごく胸が苦しくなったことを覚えています。
僕とその出来事については、全くと言っていいほど、関わりはありません。それでも心に深く刻まれた出来事でした。その中で今ある時間と目の前の人に会えている事実はかけがえのないものなのだとこの小説を読むことで改めて思ってもらえたら幸いです。


【あらすじ】

高校二年生の大桐 縁(だいどう えにし)は、十五年前に起こった東部大震災の時に負った額の傷が原因で、幽霊が見える体質になった。

体質を周囲の友達や家族に隠しながら日々を過ごしていたある日、高校の教室で独りの女の子に出会う。その女の子は、見覚えのない生徒だった。誰かと訝しむ縁だが、彼女は忽然(こつぜん)と姿を消してしまう。

それからしばらくして放課後に女の子と会う縁はそこで彼女が幽霊だという事実に気づく。

幽霊の女の子(本庄 璃子)は誰かを教室で待っているようだ。

果たしてその誰かとは?十五年の時を経て叶う青春恋愛ストーリー。

 

【みどころ】

・大阪府北部地震で亡くなった小学生の女の子の不運がどうしても忘れられず、その想いを小説に書きたいと思い、書いた小説です。

 

・キャラクターの話やストーリーの展開など面白い展開や泣ける展開にもなっているのでぜひいろいろな場面を楽しんでもらえたらと思います。

 

 

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