創作とコラムを発信するブログ

2022年9月22日木曜日

長編小説 恋の命題(書籍販売あり)

 【ご紹介】

製本小説、第3弾で、テーマは「恋とは何か。」です。

LGBTなど多様する現代の恋模様を考える一つのきっかけになってもらえれば良いかなと考え、作品を作りました。


【あらすじ】

クラス成績No.2の男子高校生、柴田優芽は、名前でいじめられた過去があった。

優芽はその事実をコンプレックスに感じ、周囲の人を遠ざけていた。
彼が自分らしくいるために趣味として始めた趣味は、女装をしてオトコの娘になることだった。

そんな優芽には唯一、クラスの中でライバルと認める女の子がいる。
クラス成績No.1の女子生徒、湖山愛紗だ。
愛紗はまた同じクラスの水原清美と恋人関係にあった。

二人は試験が終わった帰りの教室で、些細な喧嘩をしてしまう。
モヤモヤとした気持ちを晴らすために女装をしてゲームセンターへと足を運ぶ優芽はそこで愛紗、清美と遭遇する。

優芽は正体がバレるのを恐れ、その場から逃げ出すがカバンについていた大事なキーホルダーを落としてしまった。
そのキーホルダーをまさかの清美に拾われてしまう。

そしてその清美は愛紗との恋人関係に対して悩みを感じていた。

オトコの娘となる優芽
女の子が好きな愛紗
好きになる相手で揺れる清美……

それぞれの感情が動き始める。
恋とは何か。
想いが交差する学園生活の中で抱える恋の命題が生まれていく!


【見どころ】

・百合小説が楽しめる。

・百合・女装男子の恋愛模様が楽しめる。

・普通に学園生活を書いたものなので、高校生活を思い返しながら読むこともできる。





【書籍情報】

製本サイズ:A6
ページ数:428
表紙加工:カラー
本文カラー:モノクロ
綴じ方:無線綴じ

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製本のご注文はこちら

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2022年7月27日水曜日

普段の生活に『ひとつ』こだわりを入れる!

event_note7月 27, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments
今回は以前に行ったあるイベントでの記憶に残っている言葉の話をしたいと思います。
今はもう閉店してしまってお店が移っていますが、自然食をテーマにしていたお店が主宰する新年の餅つき大会に参加させていただきました。

そこでは、出来立てのお餅を子どもたち臼と杵で付くことで自分のお餅を作ってみて、自分でついたお餅をみんなで食べることができる会です。

大人たちもたくさん集まって子どもたちにお餅をいろいろな味に味付けして振る舞っていました。とても寒い日に食べるつきたてのお餅は今でも口の中で溶けるようにほっこりさせられる味をしていたのを思い出します。
そのイベントでは、お米やきな粉など、食品を提供してくれていた提供者さんのお話を聞くイベントも開催されていました。
そこで提供して下さっていた農家の方の考え方が今でも僕の心の中に残るほど素敵な言葉だったので共有できたらなと思いました。 

その方は、オーガニックの野菜やお米を作っていらっしゃる農家の方でした。オーガニックとはざっくり以下の特徴があります。

 *作物につく害虫を寄せ付けないために使う農薬は一切、使用せず手作業で
 虫を除去するなどして手間隙かけて作られる。

*有機栽培と同じ意味

 *化学肥料を使うことなく、太陽やその土地にある土、水、微生物などを
 生かして加えることなく、その風土のみで作物を育てたもの。

 *「オーガニック =危害リスクがない」わけではないが、より安全性が高
 く、化学物質によるリスクの少ないもの。

 その特徴をまとめて言うと、「自然と人間のバランスを考えてお互いにリスクのない農作物生産をすること」をオーガニック栽培と捉えていいのかなと僕は思います。

そのオーガニックを使って野菜やお米を生産している農家の方が言った言葉の中で、特に印象ぶかかった言葉があります。うろ覚えではありますが、次に書いていきます。

2022年7月10日日曜日

<音楽紹介>落ち込んだ人や悩んでいる人を励ましてくれるamazarashiの10楽曲

event_note7月 10, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

突然ですが、みなさんはお元気ですか?
元気であれば良いのですが、このページを見に来た方はきっと何かしら心が沈んでいるのかもしれません。人生の中で落ち込んだり、悩んだりしたことがある方がほとんどだと思います。逆に悩んだことや落ちこんだことのない人などいないのではないでしょうか。


そんな時、気持ちを励ましてくれるのが音楽ですよね。
僕がそのような気持ちになった時によく聴くのが、青森県出身のロックバンド、amazarashiです。


amazarashiというロックバンドを聞いたことはあるでしょうか?
このバンドはかなり暗いテーマを扱うことが多いバンドであり、またロックと言っても独特な詩を朗読するかのような曲の世界観を持つバンドです。
その独特な楽曲は詩人を思わせるような言葉の数々、何か心の奥底に訴えかけるような楽曲が多いのが特徴だと思います。

そんなamazarashiの素敵な曲を今回、10曲紹介させていただきます。
まずはamazarashiのバンドからご紹介しますね。


amazarashiとは?


・青森県出身でギターとボーカル・作詞作曲を担当する秋田ひろむさんと、キーボードやコーラスを担当する豊川真奈美さんの二人組ロックバンドです。


・結成当初は、「STAR ISSUE」「希望の光のような歌を、雑誌や新聞のように定期的に発 
信していきたい」という名で活動していましたが、すぐに「amazarashi」という名前に変更します。「amazarashi」の意味は、「日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝しだが、それでも…というところを歌いたい」です。
秋田ひろむさんの心境の変化がすごく気になります。


・2010年、「爆弾の作り方」でメジャーデビュー!!
爆弾の作り方という奇抜な曲名と何者かになれない自分がいつか何者かになってやるとい う信念を歌った曲が心に刺さる一曲です。


・ライブでは顔出しは一切NG!
秋田さん自身が、人付き合いが苦手であることや歌詞、曲の世界観を重視して聞いてもらいたいという考えを込めてライブ中は暗がりのカーテンの向こうから音楽を奏でます。しかし、カーテンをスクリーンとしてそこから演奏される音楽、そしてメッセージ性の強いステージは観客を魅了します。


amazarashi、おすすめの10曲!!

それでは、僕が好きなamazarashiが歌う強いメッセージのあるおすすめの曲たちを紹介していきます。


1『季節は次々に死んでいく』


東京喰種(トーキョーグール)というアニメの主題歌の曲です。
PVはレーザーで文字に象った肉をお姉さんがどんどんと食べていきます。
「生」と「死」をイメージさせるようなメッセージ性のあるPVと時を駆け抜けていくアップテンポのメロディに心を打たれます。



2『フィロソフィー』

缶コーヒーのCMとタイアップした躍動感あふれる曲調が特徴の楽曲です。
歌詞は人生へのやりきれなさや悔しさ、自身の弱さを背負いながら君自身を突き進んでくれというかなりハードな言葉が飛び出します。まさにamazarashi真髄の一曲です!







3『空に歌えば』

僕のヒーローアカデミアというアニメのOP主題歌を担当した一作です。
アップテンポな世界観の曲は踏み出す勇気を与えてくれます。
またサビに流れる秋田さんの詩がめちゃくちゃかっこいいです。
何かに立ち向かう勇気が欲しい方は聞いてみて損のない一曲となっています。



4『命にふさわしい』

名作PVであり、とても重い楽曲の一つですが、とても僕は好きな曲です。
得たものや失ったもの、そんなものを抱えながら一歩一歩突き進んでいく、そんな歌詞になっています。もともとゲーム好きな秋田さんがオートマタというゲームの世界観を表現したくて作った曲だそうです。
PVはたくさんの人形がAIロボットの操作によって破壊されていきます。
AIロボットという人形が人形を壊すというシュールな展開と人形たちがスクラップにされていくシーンは心のないはずの人形たちに悲鳴のような叫びを感じさせる気がします。
あなたはこのPVを見てどんなことを思いますか?
ちなみに壊された人形はちゃんと供養して頂いたそうですよ。



5『ラブソング』

秋田さんがアイドルブームが起こった際に、お金を払って愛を買うとは?ということに対して時代の波に皮肉を込めて考えた作品だそうです。
愛を買わなくちゃと訴えかけるテレビに、貧しい人たち、とにかく対象的な存在が列挙されていく歌詞に、世の中のギャップというか悲痛な格差を感じさせる作品だなと感じます。




6『爆弾の作り方』

インディーズデビュー曲ですね。
爆弾というオリジナリティをいつ爆破されるかみたいな歌詞が人々の共感を生んだ曲です。
とてもアップテンポな曲調でパワーのもらえる曲だと思います。



7『性善説』

性善説というタイトル通り、そのことを主題にしていく話なのですが、ねえ、ママと始まる通り、善悪を最初に教えてくれるのは親なのではないか?あるいは、秋田さん自身の善悪が染み付いた経験からそう歌っているのかもしれません。最初はママを信じるのですが、曲の最後につれてママが教えた世の中の矛盾というものに気付かされていきます。
またPVもそれにあわせたお話になっていてとてもメッセージとインパクトが強い作品なので衝撃的な最後に耐えられる方であればぜひみてみてください。



8『たられば』


amazarashiにしてはかなりポップな曲調で希望のあふれるような曲です。
タイトル通り、僕の人生がこうであったならということを秋田さん風に回想していく歌詞が印象的ですね。PVも可愛らしいのでぜひみてみてはいかがでしょうか?







9『ワンルーム叙事詩』

過去を燃やして新しい人生を始める曲です。
多分、最初に聞いた時は誰もが衝撃を受けるでしょう。
まあ、amazarashiの楽曲自体が、とんでもない視点から始まっていることがほとんどですが笑
自分でつけた火が消されようとしている最中、消すな!それは僕の魂だ!と歌う歌詞やどんなことに負けたって、この人生には負けられないといった歌詞がグッとくる曲ですね。





10『辻褄合わせに生まれた僕等』

昔話のような静かな始まりから壮大な流れを受けて現在の僕等は辻褄合わせに生きていると歌う楽曲です。なかなかに世の中をこういうふうに捉えて歌うことはできることではないので秋田ひろむさんらしい歌詞だなと感じます。この曲から生きるってなんなんだろうとか深いメッセージ性を感じますね。後の楽曲の「かつて焼け落ちた町」につながってくるテーマの曲だなと思います。


好きな曲はありましたか?

この中にあなたのグッとくる曲はありましたか?
あれば幸いです。
この記事を読んでamazarashiのファンが一人でも増えてくれれば幸いです。
ぜひ、他のamazarashiの曲も聞いてみてくださいね!!


2022年7月6日水曜日

『月のうさぎ』当ブログについて

event_note7月 06, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments



こんにちは!!
『月とうさぎ』ブログ管理人の調宮知博(つきみや ともひろ)といいます。

このブログは、大きく二つのテーマで運営しています。



月のうさぎのブログテーマ:


☆小説・写真・短歌などの文学や写真の作品を展示するギャラリーとして

☆エコロジーや歴史、僕が発信したいことを伝えるコラムを書く場として

⇒訪れる方の生き方の再考や心を何かしら動かすブログになって行きたいです!


本ブログの内容は以下の4つです。

☆小説・小説販売


掌握小説をこのブログでは投稿しています。他にもpixivで発表しています。
また小説を本として販売も行っています。

☆短歌・詩


短歌や詩などの作品も投稿していますので良ければご覧ください。

☆写真


Instagramにて写真を投稿しています。

☆コラム


エコロジー・history・雑記の記事を投稿します。

2022年7月3日日曜日

憧れ

event_note7月 03, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

あなたにもこんな気持ちになる人が誰かいるだろうか?

会うだけで胸が高鳴るようなそんな人が。



登校時間より一時間は早く着く電車に私は毎回、乗っている。

特段、早起きが得意なわけではない。

実際は一日中、欠伸が止まらない日もしばしばだ。

それでも私は少し早く学校に行きたい理由があった。

いつも通りに朝早い電車に乗り込んだ私は、電車の進行方向に横長に伸びる席の隅っこに腰を下ろす。

すると、私に付いて隣に座る影があった。


「おはよ!」


「あ、おはよう」


同じクラスメイトの花織ちゃんだ。


「梨沙ちゃん、こんなに朝早くにどうしたの?」


「うーん、早く行った方が勉強が捗るかなって思って」


私の適当な嘘に、素直に納得した花織ちゃんははにかんだ笑顔で答えた。

「梨沙ちゃんって勉強熱心だね」

こういう明るくて純朴な性格の彼女だからこそ、入学当初、いち早く内気な私に声をかけてくれたのだ。彼女の天真爛漫さはまるで私にとって太陽だった。


「そんなことないよ……」


つい私は悪いことをしているようで、俯き加減で答える。そんな私の様子を気にして花織ちゃんは答えた。


「大丈夫?もしかしてどこか具合が悪いの?」


「全然」

首を振って彼女の心配を否定した時、次の駅に電車は着いた。開いた扉から数人の男子高校生が騒がしく入ってくる。

早朝の静けさを蹴散らすかのような笑い声だ。

私はその高校生の中に、彼の顔を見た。

その瞬間、目の瞳孔が自分でも驚くほど開いてしまうことを私は知っている。

心なしか胸の鼓動が高鳴るのを感じた。つい、私は胸に手を当てた。

その様子を隣で繁々と眺めていた花織ちゃんは、私をじっくり観察した後に不思議そうに聞いた。


「あの人が好きなの?」


私はさらに瞳孔を開いた。


「え!?いや、そんなこと……」


ガシャン


取り乱した拍子に膝に載せていた鞄を落としてしまった。その途端、彼は集団の中からいち早く私の元に来ると、鞄を軽々と拾い上げ、私の膝に載せ直した。


「気をつけなよ」


「あ、ありがとうございます」


笑顔を向けた後、去っていく彼の背中を二人で見つめた。


「いいなあ、素敵な人」


「花織ちゃんも彼氏いるじゃない?」


中学校から一緒の男の子らしいと他の友達から聞いた。花織ちゃんは少しはにかんで答えた。


「うーん、ずっと一緒の幼なじみで、向こうが私を好きになってくれたから付き合っている感じかな」


「えっと、それって……」


本当は好きではないってことなのかな。

「いや、好きだよ。でも、憧れるって訳じゃなくてただなんとなく一緒にいていいかなって思ってるだけ」

花織ちゃんは私の心が読めるのか?

大事な友達である花織ちゃんを見つめると花織ちゃんは言った。

「だって梨沙ちゃん、なんとなく思っていることがわかっちゃうんだもん!」

「そ、そんなにわかりやすい!?」

私は自分を指差して驚いた声で言うと、花織ちゃんはこくりと頷いた。そんなにわかりやすいのかな。素直な自分がどこかバカバカしくなる。

「でも、それが梨沙ちゃんの良いところだから。だからさ、先輩に連絡先聞いてきたら?」

花織ちゃんの声にどきりとする。


「え?へ?れ、連絡先!?」


「そうだよ。今、聞かなきゃ、いつ聞くの?」


「そ、そうだよね」


私は自身の憧れを叶えようと立ち上がった。隣の花織ちゃんは両手を握りしめて私の行く末を見守ってくれている。

私は彼の手が届く手前まで歩いていった。


「あの……先輩」


私の存在に気がついた先輩は振り返るとびっくりしたように私を見た。


「あの、先輩、さっきはありがとうございました」


「あ、さっきのことね!声をかけられると思ってなかったからびっくりした」


「先輩、良かったら……」


「え、和馬、その人誰?」


私は先輩の顔しか見れていなかったけれども、隣の車列から移動してきたらしい女子高生が私と先輩の横に立っていた。


「ああ、里帆か。今日はまた電車乗り過ごしたのかと思ってた」


「あ」


私は不意に声が出た。先輩は、彼女の可愛らしい手に触れて握りしめたからだ。


「あ、そういえば君なんだっけ?」


「いえ、別になんでもないです」


私は、頑張って笑顔を作ると、そのまま踵を返した。

電車の座席に戻ろうとする香織ちゃんの瞳が悲しそうに私を見ている。

私は静かに笑うと、涙がそっと頬を伝った。


叶わない恋はたくさんある。

それでもやっぱり私は憧れがいい。悲しかったけれどもそう思った。

私は香織ちゃんみたいに器用じゃないから。

記憶

「なんで、なんで切ってしまうんだよ」

少年は大声で叫んだ。

周囲の作業員のおじさんたちはチェーンソーで街路樹を切り倒そうとしているところに少年が飛び出してきたことで慌てて彼を制した。


「君、危ないから下がっていなさい」


「下がれるもんか。その樹は、 お爺ちゃんは、まだ生きているんだ!だからお願い、切らないでよ」


叫ぶ少年に対して作業員のおじさんたちは、笑うもの、気の毒そうに見るもの、反応はそれぞれだ。ただ共通しているのは、彼らが少年の言葉の一切を信じていないことだ。


「あはは、何を言っているんだ君は」


「お爺ちゃんは僕にいろいろなことを教えてくれるんだ」


「おじさん方を揶揄うのはそろそろやめにしなさい。よし、仕事を始めるぞ」


「や、やめてーー」


振り下ろしたチェーンソーの刃は、その後、あっさりと樹木を切り倒してしまった。


 *


「う、うう、うううう」


「どうしたの、蓮くん? 」


赤いランドセルには不釣り合いなほど、身長がすらっと高い女の子が、切り株となった樹の下で泣いている少年に声をかけた。


「由紀ちゃん? 」


女の子は、蓮より2つ上のお姉さんだった。この間の行事遠足で、面倒を見てくれたことを気に仲良くなったのだ。


「どうしたの? そんなところで泣いて」


「え、えっとね……僕を励ましてくれるお爺ちゃんと待ち合わせていた樹が切られてしまったの、止めたんだけどね」


泣きながら話を終えた蓮くんに寄り添うように、由紀ちゃんは背中を撫でた。


「蓮くん、残念だったね。でもどうして樹を切られることを止めようとしたの?」


「それはお爺ちゃんがずっと僕を励ましてくれたからだよ」


蓮くんはさらにお爺ちゃんと出会ったことを話し始めた。




「うわああああん」


その日、泣きながら蓮くんは歩いていると急に声をかけられた。


「もう、うるさいなあ。なんだ小僧、ピーピーと泣きおって」


目の前には不意にシワだらけで茶色い衣を纏ったお爺ちゃんが座っていた。

頰はこけ、痩せ細っている。

蓮くんは咄嗟に声をかけられたことをびっくりして驚いた。


「小僧?僕のこと?」


「そのほかに誰がいるというんじゃ?それよりも小僧なんで泣いておるんじゃ?」


「掛け算がよく分からなくてずっと残って勉強していたんだけども、でも全然覚えられなくて……」


「なんじゃ?そんなことで泣いていたのか」


「そ、そんなことはないんじゃない、お爺ちゃん!!僕にとっては大事なことなんだ」


蓮くんは、理解してくれない老人を前にさらに絶望的な表情をする。老人はやれやれというと、蓮くんの頭に手を置いた。


「小僧、お前は良く頑張っておるじゃないか。悩むのも諦めるのも、自由じゃ。ただ一つ今出来ることに精一杯であれ」


蓮君は、老人の真っ直ぐな視線を見て、涙を拭った。


「精一杯に頑張ったって報われるわけないじゃないか! 」


「そうじゃ。報われるかどうかなんてわからん。ただ何かしなければ何も起こりはしない。そうではないか? 」

なおも老人は言った。老人は遠くを見て、蓮くんに語りかけるように話す。


「ワシはこの場所にずっと立っておる。ただ立つだけじゃが、鳥の巣を作る場所を与え、誰かの木陰になり、空気を作っておる。それがワシの正直にやりたいことだからじゃ。だから、小僧、どんなことでも己に正直にやればよいのじゃ。そうすれば何事も良くなっていく。そういうものじゃ」


「そっかあ。算数は嫌いだけど、でも覚えたら良いことがあるような気がする。だから頑張ってみようかな」


「そう素直に思ったならやってみなさい。ワシはあともう少しお前をみているから」


その言葉とともに一陣の風が吹いた。

砂埃が目に入りそうになった蓮くんは一瞬、目を閉じる。

すると、あとには目の前に苔の生えた立派な木と蓮くんだけが取り残されたのだ。




「多分、そのお爺ちゃんは樹の精だったのかもね」


由紀ちゃんは、蓮くんの頭を撫でると、その後に、樹がおじさんたちによって切られた後の切り株に触れた。


「蓮くんは、お爺ちゃんに何を伝えたかったの? 」


なおも半泣きの蓮くんに由紀ちゃんはふわりと尋ねた。


「お爺ちゃんのおかげで、クラスで一番になれたって伝えたくて」


蓮くんはまた涙を浮かべながら、ランドセルの蓋を開いて中からA4の賞状を取り出した。


「これを見せたかったんだ」


そこには、蓮くんの名前と九九の段が全て言えたという表彰状だった。


「おめでとう。蓮くん」


由紀ちゃんはそういうと、その時、また風が吹いた。二人を包むような優しい風だ。


「きっとお爺ちゃんはここにはいないけれど、ずっと蓮くんを見ているよ」


「そうだよね、きっと」


二人は、空を見上げた。二人には、青い空がまるで笑ったように見えたのは気のせいではないのかもしれない。

2022年6月29日水曜日

蘇後路苦(すごろく)

event_note6月 29, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

 

戻ってみたり

行ってみたり

前に進むことがない

僕の駒


みんなみんな

早く上がっていく

僕を差し置いて


じゃあね

バイバイ

先に帰るみんな

僕は双六版と二人ぼっち


サイコロを振る

始めからやり直し

3歩進んだ

2歩戻される


悔しいから

自棄になって

また振るけど

上手くは行かない


恨んでみたり

嘆いてみたり

気付いたら自分ばっかり馬鹿みたいだ


匙を投げた

でも諦められなくて

また振り直す


人生ゲームなら

楽だったかな

いっそ遊ばなければ良かった


それでもサイコロを

手放さない

次は上手く行くと思いたいから

サイコロを持つのは僕

振るのも僕

必死で抱えてきた

結果がどうであれ

これからも振り続けるだろうな

起こる事は違っても

僕の道だから

塩辛さとほろ苦いビターチョコ

event_note6月 29, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments

 

「いらっしゃいませ! 」


茶髪の長い髪の子が、元気よく声を出している。 

とても小さくて整った鼻と色白の肌はまるでおとぎ話にでも出てきそうな雰囲気だ。 

入ってくる客もさぞかし気持ちがいいだろう。

 雰囲気は高校生だけど、多分、髪を染めている時点で大学生の可能性が高い。

 そんな分析を朝からやっているくらいに僕の脳みそは暇を持て余していた。

 ここは高校の近くにあるコンビニである。

 ここでご飯を買って学校に行く生徒が多いため朝の八時頃は大勢の学生で賑わっている。

 けれども今はまだ七時過ぎ。


そんなにお客もいない。


店内は閑散としている。


僕がこの空間にいるのは場違いなくらいにだ。 少々、気まずさを覚えながら雑誌コーナーで好きな漫画を見つけると僕は立ち読みを始めた。

途端に欠伸が出る。

それにしても眠い。 部活があるわけでもなく、勉強をするわけでもなく、僕は朝早くにこのコンビニに来る。 理由はただ一つ。
待っている人がいるからだ。
名前も知らないし、歳も知らない。

 ここは僕の高校の他にもう一つ、私立と公立がある高校密集区だからどの高校にいるのか も知らない。 

ただわかっているのはいつも胸のところに『籠球』と書いたジャンバーを羽織ってこのコ ンビニに友達とやってくるということだけだ。 

僕はその子見たさにいつもこうして早起きしている。

 きっかけはそう、たまたま目が覚めてこのコンビニにご飯を買いに来たときだ。

 下宿に住んでいるのだが、部屋は狭く落ち着いてご飯を食べる気にもなれない。 

だから僕はいつも学校の教室でご飯を食べたり、外食することがほとんどだ。 その日は学校に行くのは早いけれど、誰もいない教室で朝ごはんにすることを考えていた。

あの日の出来事を僕は雑誌を読むふりをしながら振り返る。


*     *       *


その日はなぜか目が覚めて朝早くに学校へと向かうことにすると、近くにあったコンビニ
に寄った。
朝ごはんはまだだ。僕は、そのコンビニでおにぎりとサンドイッチを買うことにしたの
だ。
安定のツナマヨ、美味しそうに見えたカルビ丼のおにぎり、タマゴサンド、そしてお茶を
手に取る。
お弁当と飲み物をレジまで持って行き、会計を済ますと、寝不足の頭でぼうっとして上を
見上げながらコンビニの自動ドアを出た。
ああ、学校に着いたらちょっとうつ伏せになって寝よう。
すると、いきなり僕の胸に何かがぶつかった衝撃が走る。

「うわっ! 」


「きゃっ! 」


僕は店内で、相手は入り口前でお互いに尻餅をついた。

 衝撃で投げ出されたスマートフォンがコンビニ前のゴミ箱の前へ飛んで行く。 

「いったあ!!どこ見て歩いているの?」 

ポニーテールでキリッとした目つき、眉毛もシュッとした顔つきをしているので、怒ると ちょっと怖いけれど、肌艶はよくわりかし美人に見える女子高生だ。

 女の子かあ。面倒だな。


直感的にそう思った。 恋愛漫画でこういう場合、すごく素敵なストーリーに発展するけれど、現実では、相手も 僕もただただ迷惑というか面倒なだけだ。


どうやって謝ったらいいかな。 必死にこの状況の気まずさを妥協することを考えながら僕は彼女を見た。

 「痛たあぁ......」 

彼女はスカートの中を盛大にこっちに見せるような格好で脚を開いて、尻餅をついてい る。


おかげでスカートの中に履いている水色のパンティーは僕の方から丸見えだった。 白いレースが凛々しい見た目に似合わず、可愛らしい。 女子高生にしてはえらくセクシーな下着だなと見とれてしまった。 

「あなたね、何ぼけっとしてるの? 」


怒っている彼女に今やっと気づいた。


「え、えっとごめん。ついぼうっとしていて」 

パンティーを見れなくなるのは名残惜しかったが立ち上がって僕は彼女に手を差し伸べた。


「あの
......ごめん、ほんと。立ち上がれる? 」 

彼女は僕の手を使わずに立ち上がるとスカートについたホコリを払い、自分のスマートフ ォンを取りにゴミ箱前まで行った。 

「あんたねえ、目の前くらいちゃんと見なさいよ!!」


まずい。カンカンだ。


彼女は目を三角にして僕に指を指して近づいてきた。 

相手もスマホを操作してたし、お互い様じゃないか。 

そう言いたかったが、この迫力だ。

 きっと僕の言うことは全く聞き入れてはくれないだろう。

 その時、彼女の足元からぐちゃりという嫌な音が聞こえた。

 二人とも彼女の足元を見る。 見ると、僕が買ったおにぎりとサンドイッチはぺちゃんこだった。 お茶は無事だったが、見事に凹んでいる。
どんな力で踏んでるんだ、この子は。


「ご、ご、ご、ごめんなさーい」 

僕よりも女の子の方が僕の朝ごはんを潰してしまったことにショックを受けたらしい。

 勢いよく頭を下げた。

「べ、べつに大丈夫だよ。また買えばいいし、僕もぼうっとしてたのが悪いからさ」

あ、形勢が逆転した。
僕は密かに心の中でふうっと落ち着くと、冷静に対応した。
しかし、彼女は納得がいかなかったらしい。とても真剣な顔つきで何か考えるように腕を
胸元で組んだ。

「たしかに貴方も悪いけれど、貴方の昼ごはんダメにしちゃったのは、私だし、なんか私
が奢らないとフェアじゃないわ」


フェアじゃない。
僕はパンツを見れただけで十分、フェア以上なのだけど。 なんてそんなことを言うものなら僕はこの子になんの罪を着せられるかわからない。 僕は唖然として彼女をみた。 彼女は立ち尽くす僕になにも言わせず、袋の中身を確認すると、コンビニの中に入る。 ひょいひょいと買う物を決めると、レジに行って会計を済ませてしまった。 その間、僕は女の子の華麗な動きをただ眺めるだけだった。 僕の分と合わせて、自分のご飯も買ってしまっている。きっとよくここにくるんだなとい うことが彼女の動きでわかった。

 「はい!あ、タマゴサンドは売り切れてたから、ミックスにしたけれどその方が健康にい いでしょ?」


「あ、うん、えっと
......ありがとう」 

笑顔で袋を手渡してくれる彼女の表情に僕の視線は釘付けになる。 その拍子に僕の心はあっという間に彼女に奪われてしまった。 「あ、それとお礼に私の持ってたチョコレートつけておくね」 ポケットからロッテのチョコレートを取り出して袋に入れる。

 「じゃあ、私、朝練あるから行くね」


彼女が去る間際、買った中身を確認した。


サラダとおにぎりか。 一緒にご飯が食べれるとは限らない。けれども、一か八か声をかけてみよう。 

「あ、あの!待って! 」


「え? まだ何か用? 」


女の子は少し面倒そうだ。

 「えっと...もし良かったら僕と朝ごはん食べないかな?せっかく買ってくれたし、誰かと ご飯食べたら美味しいんだけど」


「は? 私、朝練だって言ってる
......」 

の子のまくし立てる声とは裏腹に彼女のお腹はググーっと鳴き声をあげた。恥ずかしそ うにお腹を抑える。


やった。


一か八かの賭けに勝った!


「そこに公園があるからさ、どうかな?」

 「分かったわよ。そこまで言うなら一緒にご飯でも付き合ってあげる!なんかぶつかった 縁だし!」


女の子はちょっと面倒ながらも僕の案に乗ってくれた。
よし!今日はついてる! 心の中でガッツポーズをしながら僕は女の子とともに近くの公園にあと向かった。

朝の公園はまだ、誰もいない。
朝の公園に女の子と二人きりだなんて夢みたいだ。 

そんな浮き行き気分で彼女と公園のベンチに腰を下ろした。

 しかし、彼女は座るなり、コンビニの袋の中のおにぎりとサラダを手早く取り出してパク パクと食べ始めた。 

一通り急いで食べるとカバンから水筒を取り出して食べたものを流し込む。 

彼女は女の子なはずなのに、なんだろう......僕より勇ましい。 そして彼女は立ち上がった。

「そんなに急いで食ったら喉詰まらすよ」 

「平気!君はゆっくりしてていいよ。私は朝練行かなきゃいけないし」

 そういって鞄を背負うと彼女は歩き出した。
もっと話がしたかったのに。 一人ぼっちで置いて行かれる僕は切なげに、その背中を僕は見つめることしかできなかっ た。


*      *      *


そして今、僕はその子に会えないかとこうしていつもあの時会ったコンビニにいる。 彼女は今日も来ない。

きっとあの日は特別だったんだ。 

そう思って今日も僕はコンビニを出て、学校へ向かおうと思っていた。

 雑誌を置こうかと、ページを閉じて雑誌棚にしまおうとしたその時だった。

 手を繋いだ高校生のカップルがコンビニの入り口に入ってきた。

 その時、僕は目を疑った。 あの時、朝ごはんを弁償して公園で一緒にご飯を食べてくれた女の子は同じバスケ部の部 員であろう男子と一緒に手を繋いでいたのだ。

僕はこの時、必死で見ないふりをした。 彼女たちはお弁当コーナーで一緒にお弁当を選んでレジへ持っていくと仲良くまたコンビ ニを後にしていった。

彼女たちが出て行くまで僕は全く動けなかった。

 彼女はきっと僕のことなど覚えてはもういないのかもしれなかったけれど、気づかれるの が怖くてそっと息を潜めて雑誌コーナーの前で雑誌を読むふりをした。 

僕は彼女たちが出て行った後、どこを通った記憶もなくいつの間にか学校にいた。

 そして自分の教室で向かう途中、僕はトイレに寄った。 

個室に入り、勢いよく戸を閉めると便器に座り、俯せになって泣いた。

 そしてポケットからあの日、もらったビターチョコレートを食べる

 あの子からもらったビターチョコレートは、とてもとても苦い味をしていた。

口の中がカ ラカラしてそのために苦さと塩辛さが混じってさらに嫌な味になった。

 声に出ない涙を流して、鼻水は備え付けのトイレットペーパーで拭いた。 その日から僕はビターチョコレートが大嫌いになった。



2022年6月27日月曜日

初詣

event_note6月 27, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


 

2022年6月22日水曜日

【第一回】夏目漱石から見る「鬱」は自分探しの旅のはじまり

event_note6月 22, 2022 editBy 調宮知博 forumNo comments


1 夏目漱石とは?

今回は、夏目漱石を紹介していこうと思います。
みなさんは夏目漱石というと「吾輩は猫である」のイメージが強いのかなと思います。
偏屈な作家とその日常を猫目線で見るという一風変わったその作品は明治を代表する文学の一つですね。
甘いものが好きな私は、作中の先生がジャムをスプーンで舐めていると必ず家内に怒られるという話を読んで同じことをよくやりがちなので笑ってしまいました。
他にも「こころ」や「坊っちゃん」など様々な文学作品を遺した偉大な作家である夏目漱石ですが、文豪として活躍する以前には暗い過去がありました。
そんな夏目漱石が残した言葉にこのような言葉があります。


2夏目漱石が遺した言葉


「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」




3精神が病んだ過去


彼はなぜ、そのような言葉を残したのでしょうか?
漱石は、常に「空虚」な心の内を抱え、ずっと己が何者なのかに悩んでいました。

当時としては有名な学校を卒業し、教師という仕事に就くも、その仕事に対してやる気を持てなかったようです。常に彼の中には今の自分でいいのかという悩みがありました。そんな彼は、英語を研究するために、イギリスへの留学を命じられます。漱石は留学のためイギリスを赴くも、さらにそこで日本人と欧米人のギャップを肌身で感じ、心が病んでしまいます。

留学先で観光をするわけでも、仲間を作るわけでもなくただただ英語文学の研究に没頭して邁進するあまり、彼はついに精神疾患を発症してしまいます。

その後、留学を終えて帰国した彼は以前と同じく教鞭に立つも、精神状態は安定しないことばかり。つい学生への叱責なども増えてしまっていたそうです。そんなある日、ある事件が起こってしまいます。漱石に叱責された学生の一人が入水自殺してしまうのです。
漱石としてはカオスな心のうちをさらに闇へと突き落としてしまうような現状だったと思います。そんな精神状態が最悪な時、正岡子規の弟子である高浜虚子から療養として文学を勧められます。初めて書いた小説が文豪への道を開きます。
そこで生まれたのが処女作、「吾輩は猫である」だそうです。それから彼は文学に没頭して、今でも有名な小説として残る作品を数多く執筆していきました。

漱石は、文学と出会ったことでこう表現しています。

「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」

漱石は文学を作ることでやっと自分の道というものを見つけたようです。

4夏目漱石の人生が遺したもの


夏目漱石は精神衰弱や胃病に苦しめられて生涯を閉じました。
夏目漱石が抱える「鬱」とはなんだったのか?
それは病気というよりも、「本当の自分とは?」という問いかけを加速させるブレーキ装置だったのかなと考えています。
現在では「効率化」や「計画的」「生産性」が求められていく時代です。
ひたむきにその目標に向かっていく努力は大切ですが、それを強いて自分の生きている目的から離れてしまうのはかえって個人として良くないことなのかもしれません。
人生は短いけれども、長いものです。
だからこそ、自分探しというものをやめてはいけないと感じます。
そこで何に向き合い、何を感じ、何をしたのか。その一つ一つの積み重ねが人生です。大人になろうとも、老人になろうとも真の自分自身を探究し、発見しようと努められる人が素晴らしい人なのではないかなと僕自身は思ってます。

5夏目漱石と言葉


人間にとって表現をするというのは必要なことです。
息抜きには、休息と運動と芸術活動の3つが揃ってこそ自分を回復できるともいいます。
なかなか仕事にするということは難しくても、文章を書く、絵を描く、楽器を演奏する、歌を歌うなどいろいろな芸術の中に自分を見出していくのも大事なことです。
人生にちょっと退屈や行き詰まりを感じたら、今のあなたは、自分らしいあなたではないのかもしれません。
そんな時は漱石のいう「進むべき道」を探すことをしてみてはいかがでしょうか?